第8話(終) ついに、真のざまあ(も)! だけど、期間限定聖女は、まだ続く。
「婚約解消撤回? 何を仰っておられますの。おふざけが過ぎましてよ。そもそも、殿下には守護聖獣様より、聖女様ご視界接近禁止のご通達がございましょうに!」
「俺が近付いているのは、アントラサイトになのだが」
「婚約者でもない方に呼び捨てにされるいわれはございませんが? 観察処分中の王子殿下?」
「アントラサイト嬢、たいへん失礼をした……しました……が、お、僕が再度の婚約関係をおま、き、貴女のお家にお願いしたいと申したのは、聖女様には関係なく……」
「なんということ! 聖獣様のありがたきお言葉により、私ことアントラサイトは聖女様に生涯お仕え申し上げますこと、我が公爵家はもちろん、王家からもご快諾を賜っております。即ち、私の身は聖女様の御身。王子のその言葉、ちゃんちゃらおかしいのでございますよ!」
精巧な魔石細工の意匠も美しい扇を煌めかせ、アントラサイト様がざまあをなさっている。
かつん、と鳴り響くヒールの音も、実に爽快だ。
ああ、いい……。
感動。全私が、震えた。
ありがとう、聖女コーパルちゃん、おんおん。
生きててよかった……私、生きてるよね?
『生きてるから安心するおん。感動しすぎて、聖魔力が漏れてるおん。ほい、空の魔石だおん』
『ありがとう、おんおん。……よし』
いけない。推しの美しさに、漲る聖女パワーが溢れ出てしまった。
貴重な聖魔力を無駄にしないように、空の魔石にしっかり貯めておく。
さすがはおんおん。できる守護聖獣さんだ。
『それほどでも……あるおん』
「この穢れなく愛らしい聖魔力は……コーパル様! いやですわ、はしたない姿をお見せしてしまいましたわ!」
ヒールで競歩ってできるんだね。すごいや。
それにしても、アントラサイト様。
私の前ではテレテレなところもかわいらしい。
とんま王子、気絶寸前。
王宮には守護聖獣様から再度の通達が入るから、学院には通学できなくなるかも。
王子殿下としての資格観察処分中でも、学院には通わせてもらえていたのに。何をしてるんだか。
王宮での学習になると、取り巻きも連れて歩けないよね。連中も、それどころじゃないだろうけど。
よかった。
そうだ、アントラサイト様の次のご婚約のお相手。
婚約解消、一応の責任があるからね。きちんと考えてあげなくちゃなのかも。
同世代が《《あれ》》だったから、イケショタらしい第六王子様とか? 攻略対象者じゃないから『まななび』情報サイトでちらっと見ただけで、よくは知らないんだけど。
「新たな婚約者様など、必要ございません。聖女コーパル様とともに生き、ともに果てるのみでございます」
アントラサイト様、心が読めるの?
あと、不穏な言葉を聞いたような……。
「なんでもございませんわ、聖女様」
そうか、なら、気のせいだね!
『知らぬは聖女ばかりなりだおん』
おんおん、ひどいなあ。
私、いろいろ頑張ってるでしょう?
『そっちじゃないおん』
「聖女様、俺の話を聞いてくれ……げふっ」
「近づくな、下衆が!」
あ、別のとんまが来た!
で、ざまあみたいなもの、開始!
副団長閣下のお怒りが凄まじく、騎士団副団長令息ではなくなりそうな奴が、鍛錬を重ねた元婚約者様にボコられたのだ。
ちなみに、これは暴力じゃなくて、やむを得ない行いだから、セーフ!
か弱いご令嬢が、聖女様の御為にと、健気に拳を奮ってくれているだけ、武器もなし。そう、聖女様を御守りするための、正当な行為!
「聖女様のご指導の賜物にございます」
無事に追い払えたあと、なぜか私が感謝をされていた。
『まななび』の身体強化魔法を教えてあげただけなんだけどね。
「聖女様にお尽くしできますよう、日々鍛練に励んでおります」
「ありがたいけど、無理はしないでね」
「はい!」
こんな感じで、悪役令嬢様も、ほかの皆様も素敵な方々。
ざまあも(多分)無事、進行中。
よかった、よかった。
『やっぱり、分かってないおん』
『分かってるって!』
『聖獣様。どうぞ、ご内密に』
『念話……すごい執念だおん』
アントラサイト様、念話の術式を独自習得? すごい!
私には伝わらないけど、念話なのは分かるよ。おんおんにはちゃんと聞こえてるんだね。
「執念じゃなくて、アントラサイト様の努力です! すごいです!」
「ありがたきお言葉……」
感激のアントラサイト様。
『燃料投下してどうするおん。聖女様、期間限定じゃなくなっても知らないおんよ』
『期間限定……知ってるよ!』
なかよくなりすぎたら帰り難くなる、ってやつでしょ?
大丈夫。わきまえてるよ!
『違うおん……』
おんおん、まだ誤解してる?
その時がきたら、ちゃんと私、異世界《現世》に帰れるよ。
すごく寂しく……なるかもだけど。
『まあ、今はそれでいいおん……』
『ね、いいんだよね!』
『まあ、それならそれで、ありがたいんだおん……』
おんおんも、仕方ないおん、とフワフワもふもふしている。
そう。期間限定、聖女様。
期限まで、きっちりしっかり勤めるからね!
《完》