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20.敵か味方か

「皆さん、ひとまずご無事なようで何よりです」


 急にエルフ(仮)の少女に襲われた俺たちを助けたのは、こちらもまたエルフの二人だった。男性と女性で、見た目の年齢でいえば二人とも三十歳ほどに見える。

 女性の方はというと、風の魔法で()()()()やられていた俺の足を回復魔法(ヒール)で治療してくれている。逃げている最中はそこまで痛みを感じなかったが、ここで落ち着いてからは血が溢れるのとともに鈍い痛みがずっと走っていた。しかし回復魔法(ヒール)を受けてからはそれも少しずつ和らいでいった。


「――いやあ助かりました!ありがとうございます!先ほどの防御魔法(バリア)は、お二人のですか?」


 息を落ち着かせた山田さんが尋ねると、男性の方が「はい」と答える。

 俺を守った魔法の壁。あれが無ければ間違いなく俺はあそこで死んでいただろう。


「あの、ありがとうございます」


 俺はこの間も回復魔法(ヒール)をかけ続けてけれている女性にお礼を言う。すると彼女は「いいえ」と、何故か少し苦々しい笑みを浮かべながら、短くそう答えた。

 ……あ、よく見ると彼女も長い耳をしている。ということは俺たちを襲ったエルフの少女と同じような種族なんだろうか。


「……ええと……何から話せばいいのか……」


 何やら重々しく口を開いたのは、例の防御魔法(バリア)で俺を助けてくれた男性。改めてちゃんと見ると、やはり彼も耳が長かった。

 山田さんが「どうしました?」と、それから目を伏せつつ言葉が続かなかった男性に促す。するとやっと、という具合に話しだした。


「実は……あの子は僕らの子どもでして……」

「………………」


 特徴のある耳に、どことなく似ている顔つき。そうじゃないかと心の中で思っていたのは僕だけじゃないだろう。


「……失礼かもですが、お二人は魔族ですよね?」

「!」


 山田さんはそう聞きながら、静かに武器へ手を近づける。

 魔族はその全員が人間の敵というわけではないが、実力主義が大原則の魔物や魔族の世界。魔力もなければそれを補う特別な力もない人間などに味方することはかなり稀だ。そんな魔族と対峙する山田さんの笑顔はなくなり、両の目はさっきまでとは打って変わって、エルフの男性を鋭く刺したまま動かない。


「あの、待ってください!確かに僕らは魔族です!魔族ですけど、その、決して皆さんを傷つけたりはしません!」

「それは本当ですよね?」

「はい!もちろんです!」


 それでも表情を変えない山田さんを前に、必死に、彼は訴える。

 ただ、俺にも更科さんにもわかる。山田さんは魔族を、別に魔族だからとそれだけで敵対視することはない、と思う。山田さんは今、俺たちを守ろうという気持ちが何より強くあるだけだ。

 だからこそ、俺は、俺たちは言う。


「……山田さん、僕は二人を信じたいです」

「弋くん、そう簡単な話じゃないんだよ。例え今の言葉が、今この瞬間は事実だったとしても、これからずっとそうとは――」

「山田さん。私も信じたいです」

「それは何を根拠に――」


 山田さんはエルフの男性を正面にしたまま横目で俺と更科さんのいる方を見る。そして、俺の言いたいことを理解し、武器から手を離した。

 エルフの女性――つまりは俺を殺そうとしていたであろうあの少女の母親は、山田さんがエルフの男性に武器を向けようとしていたその時も、切らすことなく俺の足に回復魔法(ヒール)をかけ続けていた。そしてその表情は、あまり俺に見えないようにはしていたようだったけど、何故かとても悔しそうに見えた。


「……わかりました。あなた方を信じることにします」

「!ありがとうございます……!」


 それから少しして、俺の足の治療が終わった。あれだけ深く肉も削れ、とても現実世界の医療では有り得ないほどのわずかな時間で、そこには小さな傷すら無かったかのように元通りになっていた。これが魔法の力かと驚くばかりだ。……まあ、傷つけた側の魔法も大概ではある。

 さて、信頼とまでは言えないけど、まあお互いのことを敵対する存在ではないとそれぞれが認識したところで、五人全員で小さく円を作るように座る。


「――では今さらですがけど、自己紹介でもしましょうか」


 山田さんを皮切りとして、まず俺たちイセカイ運輸の三人がそれぞれ簡単に自己紹介を終える。話をすると、二人は俺たちの会社のことはもちろん、転移のことも知らなかった。まあ、うちの会社が転移を商売にし始めたのもここ10年くらいだしそんなものか。ただ、魔法だとかが普通の世界だからか、そこまで驚いている様子がなかったことにむしろ驚いた。

 続いて二人が自己紹介をする。


「ヤウルド・ユーザメロウです。こちらは、妻のカフィルイ。魔族では珍しいかもしれませんが、『ユーザメロウ』というのは人間種でいうところの苗字です。娘の名前は、アリスフィアといいます。皆さんならそれぞれ、ヤウル、カフィ、アリスと呼んでもらえればと思います」


 さっきから思っていたけど、二人とも随分と礼儀正しい。それも、ちゃんと人間目線として。それに人間の文化的なものまでも理解しているようだし、魔族と一口に言っても様々な魔族がいるということがよくわかった。


「では、ヤウルさんにカフィさん。教えてくれますか。二人のお子さんに――アリスさんに何があったのか」


 山田さんの問いに、ヤウルさんが落ち着いて答える。


「はい。事の発端は、マスヴァラという魔族が私たちの前に現れたことでした。そいつは恐らく、相手を洗脳するような力を持っているんだと思います」


 洗脳……。聞くだけで、ろくでもない力なんだろうと想像がつく。そして、なんとなくアリスという少女に何があったのかも。


「……皆さんが思ったことは、たぶん間違いではありません。アリスフィア――アリスは今、その魔族に操られている状態です」

「その魔族はどうやってアリスさんを?」

「具体的にはわかりません。マスヴァラは浮遊する大きな目玉のような魔族でした。あの時、恐らくその眼から何か魔法か何かを発動していたんだと思いますが、確実なことは何とも……」


 ――眼から魔法、か。もしそうならちょうどいいな。

「じゃあ別の質問です。その魔族が襲ってきた時には、アリスさんだけじゃなくてお二人も一緒だったんですよね?そもそも襲われたのに心当たりは?」

「マスヴァラなんて魔族は知りませんでしたが、アリスが狙われたのは私たちに比べると魔力制御がまだ甘いと思ったのでしょう。その方が魔法への抵抗が弱いですので。狙われたのは、直接言っていたわけではないですが、恐らくは私たちの魔力制御が使()()()と思ったんでしょう」


 使える?


「その、使える、というのは?」


 返ってきた答えに、俺と更科さんは恐怖を隠せなかった。


「私たちを操って、それを()()()()()()()ということです」


 ……魔王。

 よりにもよって、その言葉をここで聞くことになろうとは。頭の中で思い出されたのは、シェナさんから魔王について教えられた時の言葉だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()

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