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12.お土産は私です

「俺たちはもちろん日本語を使って話しているつもりでいるけど、異世界であるアーウェズトの人たちが日本語を使っているわけないだろ?これは『言語理解(テレパシイ)』っていう、聞いてわかる通り言葉を通じ合わせることができる魔法のおかげなんだってよ。こっちの世界では魔族との意思疎通をするのに使ってる魔法だって話だ。ま、俺は魔法のことはあんましわかってないんだけどな!ウチの会社に「佐藤」ってやつがいてさ、そいつが俺たちが転移する時には自動でこの魔法が機能するようにしたんだ。ちょっと立場だとか色々と特殊な人だから、また紹介するな。あと、こっちの世界で使われてる言語は一種類しかないから、別に「日本語」みたいに「何語」とかもないって前にダロさんと――」


 山田さんにアーウェズトという国と街について、そんなことを教えてもらいながら散策する。修学旅行が授業の一環であるように、一見、異世界での観光のような時間も自分たちにとっては立派な仕事だということだ。最初に会った時はそんなだと思わなかったけど、山田さん、実は仕事に対してかなり真面目なのである。


「ほら、あそこに見えるのがギルドだ」


 進行方向、山田さんの指す先には、実に無骨な建物が鎮座していた。シェナさんたちと別れてから随分歩いてきたと思うから、だいぶ離れたところに本部があったらしい。ちなみにそれこそ歩いてきたけど、特に疲れだとかを感じないのはやはり異世界特権のようだ。


「ギルドって、冒険者になりたい奴が冒険者登録をして、クエストを受けてお金を稼ぐための場所……って思うだろ?」

「違うんですか?」

「部分的にはそういう面もある。といっても、扱ってるのはクエストじゃなくてほとんどが個人とかからの要望や依頼だし、それらを取りまとめて、受けてくれる人を探してくれるってくらいだよ。近いことかもしれないけど、冒険者みたいに、それを専門に生計を立てている人なんてアーウェズトにはほぼいない。ましてや冒険者なんて職業もない!」


 つまり冒険者はいないけど、何でも屋がいるわけか。でもそれだけで仕事になるほどではないと。イメージとしてはお小遣い稼ぎって感じなのかな?


「じゃあ、魔物が出たら誰が対処するんですか?」

「見かけるのは国の外だから、基本的に対処も何もしないよ。魔物の皮とかが必要なら狩りみたいなことはしてるらしいけどね」

「でも、シェナさんたちの話だと、どこかの路地裏に魔物がいたかもしれないって話でしたね」

「俺もそういったのはこれまで聞いたこと無かったけど、たまにはあるのかもな。この国にも憲兵団って言って、日本とかで言う警察みたいなのがあるんだって。事件があれば捜査とかもするっていうから魔物の退治とかもやってるんじゃない?」


 へえ。ちゃんとそういう組織的なものがあるのか。


「じゃあ魔物を倒せるくらいには強いんですかね」

「そうじゃないかな?でもダロさんが前に、『人間が魔物よりも弱いのは常識』だって言ってたけどな。でも訓練とかすれば勝てるんじゃない?人間には魔物には無い、武器を使えるって強みはあるってダロさんも言ってたし」


 そのあと小声で山田さんが「……他は全部負けてるとも言ってたけど」と呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。

 しかしまあ、森の中での出来事を思い返すと、ダロさんの言う通りだとは思う。

 山田さんの言う、人間の強みである武器こそ俺は一応は持っていたけど、あの場を俺が生きて乗り越えられたのは偶然でしかない。あの武器がその『常識』を覆すほどのものだったのかと言えば、きっと違うだろうし。つまり、やっぱり人間は魔物には勝てないと、そういうことなんだろう。


「それで、この後はギルドに行くんですか?」

「いや、特にギルドには用はないよ。シェナさんとダロさんがギルドの異世界部門ってとこの所属って言ってたっしょ?別に俺ら探索部って、仕事じゃああの二人としかほぼ話すこともないんだよね」

「異世界との関わりってかなり重要そうなのに、随分と扱いが軽いんですね」

「まさか!異世界とのやり取りなんて、国家レベルで超重要事項だよ。単独で、なんじゃあ世間的には秘密裏にやってるウチの会社がオカシイだけ。アーウェズトじゃイセカイ運輸とのやり取りなら受付とか事務的なことをシェナさんたち異世界部門の二人が担当としてやってるだけで、あとは国王レベルのお偉いさん方とか結構お互い丁寧に対応してるらしいよ」


 そうなのか。でもちょっと考えただけでもそのレベルの話なのは容易に想像できる。現実世界だって国同士のやり取りは各国の代表がやってるんだから、そりゃあ世界も跨いでなんてなれば当然だよな。ということは。


「じゃあこちら側はうちの社長が、ですか?」

「もちろん。ひとつの会社構えてるだけあるからね。ああ見えて、ちゃんとしてるんだよ。最近こそ回数も減っただろうけど、これを会社の事業にしようなんて動き始めた頃なんか、すげえ頭下げて回ったなんて聞いたよ」


 そうなのか。正直言って、あの社長がぺこぺこしてる姿なんて全然想像はつかないな。


「社長も大変だったでしょうね、相手が国王とかだなんて」

「まあね。でも、頭下げてもなんのこっちゃって反応されたって言ってたけどな」

「なんでですか?」

「他人にお願いする時に頭を下げるなんて文化が、アーウェズトにはないんだとさ」

「あ、そういうことですか。……社長には言わないでほしいんですけど、怖がられたりしなかったんですかね?」

「この世界じゃ金髪なんて普通にいるし、挨拶回りはちゃんとスーツ着てたからさ。そのスーツすら存在しないしね。グラサンもかけてなかったと思うし。アーウェズトの人たちからすれば精々、変わった服着てるなーとか、見たことないタイプの顔してるなーとか、そんなもんだったと思うよ」

「僕らも同じ感じに見られてるんですかね?」

「たぶんね」


 なんとなく、周囲から視線は感じている。なんとなくというか、こっそり見てる風でもなく、ちゃんと見られている。そしてそれを受け、俺は俺でちゃんと――見るのは気が引けるので、横目でチラチラと見るに留めている。


「さ、じゃあ目的地に行くとするか!と言ってもまだ時間はあるし、遠回りでもしてくかな」

「目的地ってどこなんですか?」

「聞いて驚け!何を隠そう、王様の住む城だ!」


 なっ……。


「……と言っても、王様に会おうだとかってことじゃないからな。たまに近況報告みたいな感じで、城の事務所みたいなとこに行くことになってんのよ。最近行ってなかったから、弋くんにも様子でも見てもらおうかなってさ」

「なるほど、そういうことでしたか。シェナさん達に会うってだけで緊張してたので、王様に会うなんてことになれば、それこそアーウェズトのことをまだ何も知らないような奴、行っちゃいけないと思ったので」

「わははは!この国の王様、一応俺は会ったことあるけど、見た感じ温厚そうだったから別に緊張する必要もないさ!ああそうだ。今日も時間空いてたら挨拶くらいさせてくれないかな?」

「勘弁してください……」


 山田さんのことなので冗談なのはわかるけど、山田さんのことなのでいろんな事を軽く考えてる可能性もあって恐ろしい。

 あと、重要な場面でめっちゃ粗相とかしたらこの国ではどうなるんだろう。例えばうっかり王様に失礼な態度をとってしまった時とか。後で聞いておこう。


「じゃあ弋くん、城に行く前にこの世界のご飯でも食べてかない?食材とかも馴染みのないものばかりだし、味付けも俺らからすれば変わってるかもだけど、物は試しだと思うんだよね」

「ご飯ですか?それなら喜んで――」

「ほう。なら俺様も飯としようかな」

「……え?」


 突然、誰もいなかったと思っていた背後からの声に振り返る。灰色の毛に覆われた、自分よりやや小さく痩せた体つきのそれ。やや垂れた三角の耳、そして鈍い黄色に光る両の目。そこにいたのは、どう見ても人間ではなく――。


「魔物……!」


 二足歩行する犬、というのが近いのだろうか。もしくは、実物は見たことないけどゴブリンとかがこんな風貌でよく描かれている気がする。


「オラァ!!」


 俺がそんなことを考えてると、山田さんがその魔物に向かって、どこから取り出したのか短剣を振りかざしていた。


「おっと!危ねーじゃねえか」


 しかし魔物は半歩後ろに飛び退いてそれを躱す。ギリギリでなんとか躱したように見えたが、その表情からは余裕さが感じられる。周りにいた住民たちに目を向けると、慌てて逃げていく人や、距離をとって遠巻きに見守る人など様々だ。


「くそっ……なんでここに魔物が!」

「魔物?俺は魔物じゃねーよ。魔族だよ魔族」

「何が違うんだ?」

「あ?言葉ってのを使えるようになったら魔族って言われんだ。知らねーのか?つっても俺も魔族に成ったばっかだからよくわかんねーんだけどな!……まあいい。なんでか知らねーけど、俺はたまたま()の中まで入れたんだ。魔族に成ってすぐに、だ。ツキが逃げないうちに、ここらでテキトーに土産でも持って帰るとするかな」


 そう言うと、魔物――魔族は俺に目を向ける。


「――え?」


 そう口から零れたのが早いか、魔族は一直線に俺の方に飛びかかると、素早くそのまま俺の背後に立つ。


「下手な真似するなよ。死にたかねーだろ?」


 言いながら魔族(そいつ)は俺の首に爪を立てる。首筋に液体が流れたのを感じるが、まだ刺されてはいないようなのがひとまずの救いと言ったところなのか。


「弋くん!」

「イグルミってのがこいつの名前なのか?まあどうでもいいんだけどな」


 そいつは首筋から爪を少しだけ離すと、片足でタタンと地面を鳴らす。その瞬間だった。


「……わっ!」


 地面が急に泥になったかのようにぬかるんだかと思うと、そのまま足が沈んでいく。


「そんじゃ土産も手に入れたし、俺は帰るわ」

「待て!」

「待つわけねーだろ。じゃーな」

「待て――」

 そこから動くことすらもできず、沈む視界の中でただ山田さんの声が遠くなるのを聞いた。

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