表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

eins

 きっかけは何気なく見上げた夜空を目に入れたからだった。


 大都会に立ち並ぶ高層ビルを潜り抜けるように、打ち上げ花火が夜空を舞った。バンと音が鳴ると同時にオレンジの光は円を大きくして、やがて青色へと変化して、程なく消えていく。


 「菊先(きくさき)にも種類があって、色に応じて呼び方も変わるんだよ」


 楽し気に指差しながら屈託のない笑顔を向けてきた彼女の顔は、薄暗がりだったのに今でもずっと憶えている。思い返した教えに従えば、夜空に浮かぶあいつは菊先青ってやつなんだろう。


 奇跡を起こしてくれた彼女は、残念だけど隣にはいない。その事実はきっと時間が解決するだろうと思っていた。学生から社会人になって、ずっと流れのままに過ごしてきて、奇跡に応えられなかった僕が今日もここにいる。


 「奇跡って、二度、起こると思います?」


 立ち寄ったバーのテーブルで頬杖をつきながら、僕はバーテンダーの女性に尋ねた。髪を後ろで一括りにして跳ね上げたその人は、見た目はすごくバイタリティ溢れる感じだけれど、客に向かうときはどこまでも静かに、穏やかに聞き入る。


 「確率の問題は私にはわかりません」


 小気味良く振ったシェイカーは、グラスと軽い口づけを交わすと透明色の液体を注ぐ。


 「ただ、ひとつだけ確実に言えるのは……」

 「起こるではなく、起こすから奇跡なんじゃないでしょうか」


 バーテンダーの言葉が心臓の奥底まで響いた気がした。僕はグラスを二、三度傾けると、ゆっくりと喉に流し込む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ