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第21話

「あなたに言われてカミラ嬢の様子をほとんど毎日メイドから聞いていましたが、あの方は強いですね」

朝から晩まで毎日繰り返されるダンスの練習を乗り越え、式典の準備に奔走し、式典の冒頭で読み上げる言葉も、前日の夜まで考え込んでいたとアルスから聞いている。ヴィンセントが南征の会議で忙しく、なかなか顔を出せない間も、彼女は主体的に動いていたそうだ。

(そうだ、カミラは強い)

 そして今日のデビュタント。声が枯れるまで司会進行役としての役目を全うした。パレードとして多くの人を祝福したいという彼女の芯が見えた気がした。

「それにしても、貴族のためだけではない……ですか。身につまされる思いですね」

「……そうだな」

 カミラが式典の最初に言った言葉。彼女の人となりが、その言葉に現れている気がした。

 今のシントレアが血統主義の階級社会である以上、大きく階級がぐらつくことはない。貴族の生まれは次世代もその次の世代も貴族で、平民に生まれれば何代先も平民なのだ。

 いつかカミラが話してくれたように、エミリスワンのように国民が手を取り合い、階級のない平和な国にしたい。

 ヴィンセントがぼんやりと感じていたこの国の階級社会への違和感、そしてその打開策を一つ、カミラとエミリスワンに見せてもらった気がした。

(彼女の存在が、この国を変えてくれるかもしれない)

「実現したら、この国は大きく変わるでしょね」

「ああ」

 アルスはもともと貴族の生まれではなかった。彼もまた、階級社会のゆらぎの一人である。早くから戦場に出て、その腕と洞察力で味方からの信頼を集めた。そこで目をつけられたアルスは、今の騎士団に入団し、貴族の後見人をつけることができた。その貴族は独居の高齢男性で、アルスがちょうど20歳のときに彼の昇進を見届けるよう亡くなった。

 その彼が言うこの言葉は、ヴィンセントの心にも重く響いた。

「私から見ても、カミラ嬢は素晴らしい女性だと思います。あなたが婚約者として、正式にこの国で娶ってはどうですか」

「……彼女にも、家族がいる。俺はカミラの父上から正式に彼女の保護を頼まれている身だ」

「最終的には、エミリスワンに帰らせる……それは変わらないのですか」

「俺の一存で決めることではないからな」

「……そうですね。では、この書類は確かに預かりました。これで私は失礼します」

「ああ。お疲れ様」

「おやすみなさい」

 アルスはいつも、ヴィンセントにおやすみなさいと声をかけてくれる。それは、まだ16歳の頃から弟のように世話を見てくれた名残なのかもしれない。

 一人になった部屋で、ヴィンセントは考え込んだ。彼女へのこの気持ちが、アルスの言うように恋心なのだとしたら。

(いや、これは……確かに、アルスの言うとおりだ)

 言われてから気づいたのは、無意識のうちに感情に蓋をしていたから。自分ではあえてカミラへの感情は詳しく追及しないことにしていた。

 はぁ、と大きなため息をつく。もしアルスが口にした、彼女を本当の婚約者にするということができたら、どれだけいいか。

「……叶わぬことだな」

 ヴィンセントは立ち上がると、執務室をあとにした。


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