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第16話

 少しずつダンスも板についてきた頃。

 カミラは部屋のろうそくを机上以外ほとんど落として読み物をしていた。読んでいたのはデビュタントに参加する貴族たちの名簿。家柄や成し遂げたいことなどが立派に並べられており、小国で過ごしてきたカミラは実物を見たことのない爵位を持っている者もいる。

(本当にすごい家柄の人ばっかり……それでこんなにも人数がいるなんて)

 エミリスワンに存在する貴族は王家の血筋を引いたごく少数だ。そもそも貴族という発想があまりない。特権階級を作ってしまえば、国民みな仲が良く平和だったあの小国が崩れ去ってしまう。

(この国は、どうなってるんだろう? 本に載っていることは教わったけど、お城の外には出たことがないし……)

 そう考えていると、コンコンコン、とドアがノックされた。

「わっ……」

 集中して考え事をしていたカミラは驚いて声を上げたが、すぐにそのノックが何を意味するのか気付いた。

(これは、ヴィンセントさん……!)

「はい! お入りください!」

 その声が聞こえたようで、相手は部屋に入ってきた。暗がりから見えたのは、予想通りのヴィンセント。

「こんばんは──」

「あなたは不用心すぎる」

 開口一番に想定外のことを言われてカミラは一瞬固まった。

「え……」

「誰かわからないのにドアを開けるのか?」

 机の前まで来たヴィンセントは眉を寄せ、困った表情を見せた。カミラは慌てて立ち上がり、弁解の言葉を考える。

「いえ……! その……ヴィンセントさんと執事さんは、必ずドアを3回ノックされるので……」

「3回?」

「はい。他の方は2回ですけど、ヴィンセントさんは3回だから、ノックされた時点でどなたかわかっていました」

 カミラがそう言うと、一瞬意表を突かれたような表情になる。しかしすぐに息をつき、いつもの落ち着いた様子に戻った。

「……そうか。それにしても不用心であることは変わりない。他の者が真似したらどうする」

「あっ、そうですね……すみません」

(恥ずかしい……私、ヴィンセントさんが来たからって尻尾振って……)

 カミラは自分の頬が熱を帯びるのがわかった。自分の好意がヴィンセントにばれてしまったのではないかと気が気ではない。

「本を読んでいたのか?」

「あ、いえ……デビュタントのリストを見ていました」

「ああ……あなたは司会進行だからな」

「はい。それにしても、こんなにたくさんの貴族の方がいるなんて驚きました。しかも、貴族の中から選ばれた人がこのリストに載ってるんですよね? 貴族の18歳になる方、全員じゃないんですよね?」

「ああ、そうだな。貴族の中でもごく一部だ」

「そうなんですか……じゃあ、本当に選ばれた人だけなんですね……」

「どうした?」

 カミラがつい考え込んでいると、ヴィンセントが顔を覗き込んできた。

「……これって、貴族の方だけの式典なんですよね?」

「そうだな」

「そうじゃない方は、こういう式典に参加されないんですか?」

 カミラの疑問に、ヴィンセントがふと考える。

「……そうだな。貴族階級のみ参加できる式典だ。国民の間では、18歳を祝う風習すらほとんどない」

「やっぱり、そうなんですね……エミリスワンにもしデビュタントがあったら、って考えたら、18歳になる人みんながデビュタントに出られたらいいなって思います」

「……」

「デビュタントは、18歳まで無事に生きてきたことを祝う意味もあるって、ヴィンセントさんおっしゃってましたよね? それは、身分の貴賤なく、みんな祝われるべきことだと思うから」

 カミラの言葉を聞き終えると、ヴィンセントは深く息を吐いた。

「あなたの言うとおりだな。この国では、すべて身分が物を言う。貴族の子は貴族に、賤民の子は賤民に、というのがうちの習わしだ。だが、本来であれば人は生まれてきたら祝福されるべき存在だと俺は思う」

「私も、そう思います」

「エミリスワンではあまり階級はないと聞いたが」

「はい。エミリスワンはみんな顔見知りの小さな国で……お父様は、よく階級を付けると国内の平和が保たれなくなると言っていました。特権意識は人を腐敗させるとか……」

「聡明な父上だな」

 カミラは意外な思いで聞いていた。ヴィンセントと国にまつわる話はしたことがない。どういう心境で今の地位にいるのか、国や自分の置かれた環境についてどう思っているのか、何も知らないでいた。

(聞いてみても、いいのかな……?)

 踏み込んでいいのか、それとも待ったほうがいいのか。考えているうち、先にヴィンセントが口を開いた。

「どうしたら、実現できるだろうか。みなが祝われるデビュタントは。あなたの国にデビュタントがあったら、どうする?」

「そうですね……もし私の国でデビュタントがあったら、晴れた日に、パレードをするかもしれません。エミリスワンでは晴れは貴重だし、なぜかみんなパレードが好きで……」

「パレードか……それなら今の形式よりも大勢が参加できそうだな」

「はい。でも、パレードだと個々が目立つことはあまりなくて……でも、それはもったいないと思うんです。せっかく衣装もいいものを揃えると思うし、こうして来歴と抱負まで提出してるのですから、何かこう、一人ひとりにちゃんと光が当たるような作りだったらいいのかなって……」

「確かにそうだな。だが、そうなると読み上げる人数が多くて、司会進行のあなたが大変になりそうだが……」

「全然大丈夫です。声が枯れてもやりますから!」

カミラがそう言うと、ヴィンセントが口角を上げた。あまり笑わないヴィンセントの笑顔を見て、カミラの胸が早鐘を打った。

「あなたなら、この国を変えてくれるかもしれないな」

「えっ……?」

「いや。さっきの案を、実現できるように動こう。ダンスのほうはどうだ?」

「あー……ダンスの方は、だいぶ心配な感じです」

 あはは、と笑ってみせるとヴィンセントがカミラの手を取った。

「少し練習相手になろう」

「えっ、そんな、本当に私ダメダメで……お恥ずかしいです」

「最初は誰だってそんなものだ」

 ヴィンセントに微笑まれると、どうしても否定的なことが言えなくなる。カミラはこころを決めた。

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