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参加資格

 改めて、ゲームのルールを読み返してみる。


【自身の最大の秘密を話しなさい。】

【十分間話し続けなさい。(内容は自由)】

【嘘をついたら1ポイント減点。】

【五秒沈黙が続いたら1ポイント減点。悲鳴や意味をなさない言葉、同じ発言の繰り返しも沈黙と見做す。】

【沈黙の時間が、合計一分を超えたら、その時点で失格。】

【観覧者は、挑戦者に質問することができる。】

【挑戦者は観覧者の質問に、五秒以内に必ず回答しなければならない。無回答及び虚偽は2ポイント減点。】

【挑戦者は、ゲーム中に魔法の類は一切使用不可。(ギャラリーは使用可)】

【制限時間内に一番の秘密を語れなかったら、あるいは減点が規定ラインに達したら、ゲームオーバー。】

【使用言語はアルグランジュ語のみ。】


 ただ、秘密を打ち明けるだけじゃない。かなり面倒くさい条件が並んでいる。


 特に「十分間話し続ける」というのが、最大のネックだ。もうゲームというより、縛りのキツイ余興の域だ。

 確かに、()()()()のための見世物ではあるのだろうが。


 規定時間いっぱいのフリートークなど、普通はアナウンサーが訓練して身に着けるような技術だ。その上内容は全部事実でないといけないという、相当厳しい条件付き。

 いきなり人前で十分間話し続けろなどと言われたら、対話ですら途切れて当たり前だというのに、それを一人で沈黙もなくやれと。


 まあ、ポイントと言っている辺り、沈黙一回、嘘一回で即アウトではなさそうなだけマシだが、リミットも正確な数は明示されていない。


 そもそも、一言で秘密と言っても、どの程度話せばいいのか。

 詳細を話せとは明記されてない以上、例えば「人を殺した」という一言だけでも、最低限の条件はクリアできているわけだ。

 だとしたら、そんなものは十秒とかからない。


 だから秘密の暴露以上に、実は残りの十分弱を、嘘をつかずにどうしゃべりで埋めるかが最大の関門になる。

 ただでさえロボットの機械判定だ。ゲームのルールである以上、おそらく冗談や物の例えくらいでも、事実でなければ四角四面に嘘とされる可能性は高い。

 “骨が折れる”とか“頭の中が真っ白になる”などの慣用表現がどう評価されるのかも不明だ。

 許される沈黙はたった五秒。「あ~」とか「え~と」とか言ってる間にすぐ過ぎる。意味のない言葉は沈黙と同じなのだから。


 何とかなりそうでいて、実は非常に綱渡り要素が高い厄介な要求をされている。


 そして何気にしてやられたのが、一番最後の「使用言語はアルグランジュ語のみ」というやつだ。


 僕が事前に読んだ説明には、これはなかった。

 だからこのゲームを乗り切るための手段の一つとして、全部日本語で対応することも考えていたのだ。英語なら危ういかもしれないが、日本語対策はさすがに誰もしていないだろう。

 秘密でも悪口でも何でも言いたい放題だと思っていたのに、いきなり封じられてしまった。


 これは、思考を読まれているせいだろうか。完全な僕用シフトの追加ルールじゃないか。

 はいはい、正々堂々やればいいんでしょと、不貞腐れたいところだが、まあ運営側の公平性という観点での信用度が、増したと思うことにしよう。


 正攻法で行くとすれば、開始からずっと当たり障りのない話で時間を稼いで、秘密を語る部分は極力タイムアップが迫った最後の方、それこそ残り十秒くらいになってから、一息に言い逃げするのが一番楽だろう。ギャラリーの反応や自身のメンタルを考慮すると。


 もし無策に早い段階で()()してしまった場合、自分はどうなるのか――第一の挑戦者、レオンは理解しているだろうか?


 それとも自分の魔法を過信して、深く考えてもいないだろうか。ゲーム中は挑戦者の魔法は使用不可だが、ゲーム後でもなんとかなると。


 実は現時点で、僕はレオンが魔法持ちであるという確信をすでに持っている。

 参加者リストに名前があるというのは、そういうことなのだ。


 なぜなら、このゲームの参加資格は「murder」――“人殺し”だから。


 つまり十五年前の事件で殺人を犯した人間の名前は、漏れなくリストに載っている。

 残念ながら(マリオン)も。


 探偵役が実は最初から犯人全員を知っているなんて、実に笑える話だ。

 いや、訂正しよう。僕は探偵役ではなく狂言回し。よく言っても、ただの傍観者だ。

 まずはアルフォンス君に、できるだけ納得のできる結末を見せてやれればそれでいい。

 僕の目的の達成はその先にある。


 とにかく僕は、少なくとも十五年前の事件の犯人を、把握している。

 わざわざでしゃばって「犯人はお前だ!」とか僕がやらなくても、真相はこれからのゲームで解き明かされていくはずだ。

 おそらく僕以外、一番の秘密はその殺人の件となるだろうから。


 それを上回るような国家的犯罪に加担していたり、人に知られるくらいなら死んだ方がマシなレベルの過去や性癖などを隠し持っている場合も考えられないことはないが、その場合はきっとアルフォンス君がギャラリーの質問権を使って回答を引き出すから特に問題はない。


 あなたは十五年前の選定会で人を殺したか――この質問をするだけでいい。

 「はい」と答えれば自供。「いいえ」なら虚偽の回答でマイナス2ポイント。無回答でもマイナス2ポイント。

 有効回答を得るまで同じ質問を繰り返すだけで、容疑者は勝手にあとがなくなっていく。


 それにしても――と、つい現実逃避的に思考が飛んでしまう。

 秘密を答えれば、遺産をもらう代わりに殺人罪。答えなかったら罰ゲームで殺される。

 社会的に死ぬか、本当に死ぬかのどちらかだ。そしてゲーム参加の拒否権はない。


 本当に軍曹は、“人殺し”には容赦がない。自分の演出で作り出しておきながら。とんだマッチポンプだ。


 もしレオンが大した計画性もなく、いきなり自身の殺人を公表するようだったら――十五年前に彼が手にした遺産(魔法)は、()()と考えて間違いないだろう。

 確かに、マリオンに全ての犯行の罪状を押し付けられるくらい強力な魔法だ。過信するのも無理はない。


 ただしその場合、待っているのは自業自得の破滅だ。転移を得れば、どうにでもなると思っているなら、それは大きな間違いだ。


 仮に切り抜けられそうになったなら、僕が逃げ道を塞ぐ。

 結果的にはやはり、犯罪者に相応しい破滅となるだろう。

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