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ルール説明

「それでは、これから行われるルールの説明を行います」


 予告とともに、大きな光学モニターが上部に浮かび上がる。


 そこにはアルグランジュ語の箇条書きで説明文が並んでいた。

 一面しかないが、各々の反応を見る限り、どこから見ても上下正しく見えているようだ。


「これは、自分の一番の秘密を打ち明けるゲームだよ!」


 その第一声で、周囲がざわりとした。


「ただし嘘をつくごとに1ポイントずつ減点していきます。一定のラインを越えたらコレですよ」


 眼鏡のインテリ風クマ君が、首の前でふわふわの腕の先を真横一文字に掻っ切るジェスチャーをして見せる。親指がないのが惜しいところだが、何をやっても微笑ましいな。


 彼らの説明の内容を少し考えてから、大多数が首を傾げる。


「え? それだけ?」

「それって、ゲームっていうの?」

「どっちかっていうと、ただの罰ゲームじゃない」

「でも、それで莫大な遺産が手に入るなら……」


 どこか拍子抜けしたような会話が聞こえてくるが、一部の人間は表情を険しくさせている。


 秘密なんて、誰だって言いたくはない。

 ましてや、単に恥ずかしいだけならまだしも、ここには明確に罪に問われる者だっているはずなのだから。


 とはいえ、課題自体はそう難しいことではない。


 が、ここに達成を妨害するいくつものルールが存在する。

 今、僕達の目の前にそれが掲げられていた。


「コーキさん、これって……」


 目を通していたアルフォンス君の目つきが変わる。このゲームの有用性に気が付いたのだ。

 事件の真相を解き明かすのに、絶好のチャンスだと。


 十五年前の犯人にとって、一番の秘密とは、かなりの確率でその件になるはずだ。殺人より大きな秘密があるなら、それはそれで相当なものだが。


「秘密を打ち明けると言っても、そんなのいくらでもでっち上げができませんか? あるいは自分的には公表可能な妥協ラインの秘密を、一番と言い張ったり。何が一番かなんて本人にしか分かりませんからね」


 初めて知ったかのような顔で、僕も質問の声を上げてみる。

 ルールについては事前に読んでいるが、運営側の態勢がどこまでのものかまでは判然としないので、本気の質問だ。


 僕の手を握ったままのアルフォンス君も、同じ懸念を持っていたようで、それに続いた。


「嘘発見器にかけるということか? 精度は大丈夫なのか? 俺は、それには何らかの落とし穴があると思っている」


 そんな異を唱えたくなるのも仕方ない。

 イネスの目撃証言にずっと疑念を持っていた彼としては、口出しせずにはいられないだろう。


 その疑いに対して、クマ君達はなんだか、ふふんと胸を張ったように見えた。


「ジェイソン・ヒギンズの仕掛をナメてもらっちゃ困るね!」

「僕達はそれぞれあなた達とラインが繋がっているのですよ」

「生体反応ではなく、脳ミソの記憶を直接見ちゃうのよ!」

「記憶も思考も丸見えさ!」

「たとえ加工された記憶でも、厳密にオリジナルデータを見極めることが可能なのです」

「嘘は厳しくジャッジしちゃうぞ!」


 次々と聞き捨てならない問題発言が飛び出してきた。この場がにわかに騒然とする。


 まとめると要するに――。


「つまり、僕で言えば執事のクマ君に、常時頭の中をのぞかれているわけですか。そのためクマ君達が、それぞれに担当で付いていると」

「おっしゃるとおりです」


 僕のクマ君が頷いた。


 みんな批判や悲鳴の声を上げるが、まったく相手にされることなくいなされるのみだ。

 どの道僕達は、まな板の鯉のようなもの。向こうが対応してくれるつもりがないことに関してはどうしようもない。

 とっとと受け入れて、現状でできることを考える方が建設的だろうに。


 ともかく理由を知って、なるほどなと納得した。これが今回テディベアがマンツーマンで侍る理由か。


 僕が作品制作でお世話になった装置は、現実に起こった事象の記憶を映像化・音声化はできても、思考を何らかの形にして読み取ることはできなかった。

 しかし彼らは、記憶も思考もと言い切った。


 この超高性能ロボットは、転移や防御の他に、対象の記憶や思考を精査・分析できるのだ。そんな読み取り端末を、一対象に一つ専属で付け、僕達は常時、行動どころか思考までもモニターされていると。


 もしその技術も遺産のラインナップにあるとしたら、これも社会的な扱いがかなり難しいやつだな。仮に相続しても、手に余るお荷物にしかならない。下手に異能として身に付けでもしたら、確実に自由な人生は終わる。


 だがそれよりも、クマ君の発言で何より重要なのは、「加工された記憶」の部分だろう。


 記憶と認識は、時間経過や外部からの働きかけ、その他様々な要因で変わっていくものだ。

 事実と真実が同じとは限らない。

 実際に職場で見た例だが、拒食症の患者さんなど、命が危ういほどに痩せているのに、自分は太っていると本気で信じ込んでいたりするのだ。


 そしてこの国の精度百パーセントの嘘発見器ですら、本人がそう信じていれば、事実と反している証言も嘘とは判定されない。


 アルフォンス君の懸念もまさにこの点のはずだ。

 しかしクマ君達は、当人の勘違いや事実誤認すらも見破ると言っている。


 まあ、そこまで保証できなければ、こんなゲームは成立しないか。誤判定で殺されては取り返しがつかない。


 ――それにしても「加工」か。


 その表現を皮肉に思う。

 バラバラ殺人の被害者を演じた加害者は、自身の目に映すものを徹底的に管理することで、ある種の記憶の「編集」をして見せた。


 しかし、クマ君の言う「加工」は、もっと質の悪いものだ。


 その辺も、きっともうすぐ炙り出されるのだろう。

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