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ギャラリー

 いずれにしろこれは相当の魅力だ。

 設計図の権利を国に売り渡しても、身に付いた魔法の方は、魔力量に左右されるとはいえ、個人の能力として法に触れない範囲で自由に使用ができる。まさに二重取りというやつだ。


 ここで僕は、一同の反応を観察してみる。

 相続方法の形を「魔法」と「設計図」の二点セットと、十五年前の犯人は確実に知っている。

 逆にまったく関わっていなかった者には、クマ君達の言葉は完全な初情報ということになる。


 やはり怪訝や戸惑いの色を表情に浮かべず、当然のように受け取っている面子は、僕の想定通りだった。


 つまり、ゲーム参加者リストに名を連ねていた者だけだ。


「ゲームが選択されたって、どういうことだ。いつ誰がどこで選択したというんだ。ジェイソンの遺志を汲んだ君達受け入れ側でってことか? それとも私達以外にも誰かいるのか? まさかここにいる誰かか?」


 ベルトランが、ゲームマスターの存在に疑問を呈した。


 普通なら招待者がそうなのだろうが、ジェイソン・ヒギンズはすでに故人となっていることが全てをややこしくしている。

 いきなり「ゲーム」と言われても、軍曹の肖像に気付かなかった者から見れば、訳が分からないだろう。


 とりあえずずっと不明のままだった遺産の相続方法の一端は明かされたが、いまだ「何のためにこんなことを」の部分は謎のままだ。

 むしろ新たな謎が増えただけ。


 もともと面識すらない相手。復讐される覚えなどないのだから、当然だろう。ただただ、ジェラールの血を引いていることが運の尽きだった。


 しかしクマ君達に、そこのところの答えを与えるプログラムははないらしい。


「それを探し当てるのもゲームの内で~す! でも、僕達じゃないよ!」

「もし見つけ出してぶっ殺せたら、ゲームセットよ! またゲームを選び直せるわ」

「ヒントは、この屋敷にいる誰かなのだ!」

「片っ端からぶっ殺していけば、そのうち当たるかもね!」


 質問に対しても順番に応えていくが、陽気さが逆に不気味さを醸し出している。――そしてまたもやゴスロリちゃんが……この子はなんかもう清々しいな。


 だが、聞き流せない一言が出た。僕の読んだ文章にはなかった説明だ。


 ゲームマスターが殺されたら、ゲーム自体が止められてしまうのか。これは重要情報として念頭に置いておかなければ。

 見当違いの人物が誤解で襲われるのも問題外だが、何より、最も好都合なこのゲームが半ばで終わってしまうのは困る。

 まあ、殺せるとも思えないが、注意はしておこう。


 僕が考えている間にも、説明は続いていた。


「このゲームは、一人ずつ挑戦者が挑むルールだよ!」

「さあ、最初の挑戦者は、誰かな!?」

「俺だ! 俺がやる! 早い者勝ちなんだろ!?」


 若さゆえの瞬発力と無謀か、間髪容れずに立候補したのはヴィクトールだった。


 正直、馬鹿なんじゃないかと思う。いや、知ってはいたが。周囲の皆さんもドン引きだ。

 まだルール説明もされていないのに。しかも失敗したらぶっ殺すって言ってるのに。

 クマ君達が可愛すぎて、内容を真剣に受け止めていないのだろうか。


 もちろん僕もいずれは挑戦させられるにしても、いきなり一番手に名乗りを上げる蛮勇は持ち合わせていない。

 文章でルールだけそれなりに把握していても、実際のところは見てみなければ分かるものではない。可能な限り様子を見て、最低限の対策を講じてから臨みたい。

 その意味では、おバカさんがいるのはありがたいともいえる。

 

 いや、あるいはヴィクトールのこの後先考えない暴走も、実は本人の意志ではないかもしれないという疑いは消せない。

 父親の露払いの可能性があるのだ。レオンとしても、いきなり自分が挑むのは怖いから、まずは息子にやらせてみると。

 だとしたら、さっきの僕への接触も、やはりレオンが差し向けたものと考えるべきだとなるが。

 本当のクズは、やはり……。


「申し訳ありません。あなたには参加資格がございません」


 ヴィクトールの立候補は、即座に却下された。おお、僕のクマ君はとても礼儀正しい! さすが執事だ。そして一番可愛い。


「はあっ!? 何だよ、参加資格って!!」


 キレるヴィクトール。だが足元が動かず上半身だけのアクションなので、なんだか滑稽だ。


「ざんねんでしたね~」

「条件を満たしてない自分を恨みなさいな」


 逆撫でるかのように、クマ君達は陽気に答える。仕様というより、煽っているとしか見えない。


「条件ってなんだよ! それを満たせたら、俺にも遺産相続のチャンスがあるのか!?」

「それを考えるのもゲームの内なのだ! ヒントはもう出てるぞ!」

「身近な場所にあるから探してみてね!」


 ――ヒント。というと、参加者リストのことだろうか。もうヒントというか、普通に名前が掲示されているのだが。しかも各部屋に。

 自分の部屋にそのヒントとやらが堂々と飾られていることに、本当に誰も気が付いていないのだろうか。

 やはり知らないというのは、実に恐ろしい。


「ガッカリすることはありませんわ! ゲームに挑戦はできなくても、ギャラリーにだって出番はありますのよ!」


 ギャラリー(観客)と言ってる時点で主役にはなれないわけだが、フォローになっているのか疑問だ。

 まあ、最初の挑戦が終わったら、おそらくギャラリーでよかったと思うようになっているだろうが。

 ちなみにこのお嬢様口調は、お姫様だ。ちょっとキャラが強すぎやしないだろうか。ゴスロリちゃんと喧嘩とかしないのか心配だ。


 話は戻るが、ルール説明を読んだ限り、このギャラリーには、大した権限はなかった。せいぜいにぎやかし程度のものだ。


 ただし、お姫様の言葉も無視はできない。そこにも、いやらしい仕掛けが待ち受けていたりする。

 記載こそないが、状況をよくよく考えてみれば予測は容易い自明の罠が潜んでいて、気が付かなければ、自滅も十分あり得る。

 というか、「気が付かないなら死ねばいい」というくらいの、これも軍曹の悪意の仕掛けのように思える。


 ある条件下においてのみ、ギャラリーはゲームの成否を決するほど重要な意味を持ってくるのだ。

 そして遺産とは別の報酬を手に入れるチャンスが与えられる。ある種類の人間にとっては、喉から手が出るほど渇望する報酬を。


 もしかなうものならば、僕はそれを見てみたい。

 スポットライトを浴びる主役に向けられる、無力な脇役の致命的な一撃を。

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