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始まり

「あ、これ、コーキさんの曲?」


 僕のファンを明言してくれただけあって、ルネが真っ先に気が付いた。まあ、僕の曲ではないのだが、それはこの際置いておこう。


 少し聞いてから、僕は首を横に振る。


「いえ、僕が出したのとは歌手が違いますね。僕のはラムダウですが、これはポップのようです。僕の時代より、もう少し前の世代の歌手になります。ジェイソン氏も自身の記憶から故郷の音楽を再現して、個人的に楽しんでいたのでしょうね」


 不穏な空気が漂う中、ゲームのテーマ曲としては実にどストレートな選曲だと、内心で思わず失笑してしまった。


 これは、母親が我が宿敵を殺せと、実の娘に復讐を強要する歌。

 親の因果が子に報い――とでも言えばいいのか、まさに何の遺恨もない僕達が、ジェラール・ヴェルヌのせいで復讐劇に巻き込まれている状況を、それを演出する張本人の軍曹が皮肉に表現しているようだ。

 

 ――これから、恐怖の時間が始まるのか。

 肚は決まっているが、憂鬱だ。

 せめて、子供達の受ける心の傷が少しでも浅くあればいいのだが。


 明らかな異常事態を感じ取ったアルフォンス君が、咄嗟に僕の手を強く掴んで引き寄せた直後、僕達の視界は一変した。


 さっきまで食堂のソファーに座っていたはずなのに、別の部屋に立っていた。


「なんだこりゃあ!?」


 レオンの叫び声が聞こえた。


 周囲を見れば、一族十三人全員が、広い空間を取り囲むように輪になって散らばって立っていた。

 手を繋いでいたせいか、アルフォンス君だけは僕の隣だ。ルネとギーも同様に、輪の反対側で寄り添っている。後はみんなバラバラだ。


「コーキさん、離れないでください」


 予期せぬ事態に、アルフォンス君が改めて僕の手を強く握り直して、辺りを警戒した。


「ここは……」


 数時間前、真っ先に調べに行った殺人現場(仮)のサロンだった。


 僕達は一斉に、強制的に転移させられたのだ。

 これは実質、どこへ逃げ隠れしようとも、ひとたびゲームが始まれば瞬時に連行されることを意味する。


 まだ記憶に新しいホールの全体を見回してみた。

 ここが、ゲーム会場となるわけだ。

 大人数が入る広いスペースも確保できるし、何より一族にとって最も忌まわしい因縁の場所。

 新たな惨劇の場として、まさに相応しいんじゃないだろうか。


「一体何が起こってるの?」

「こんなこと、前はなかったぞ」

「みんな、いるわね!?」


 各々戸惑いの声を上げ、自分の家族を見付けて駆け寄ろうとする。

 ――が、それはできなかった。


「足が、動きません」


 この感覚には覚えがある。クマ君の掌の上に乗せてもらった時と同じだ。

 体は動くのに、足の裏だけが張り付いたようにまったく動かないのだ。


「コーキさん、これって……」

「ええ、重力操作でしょうね」


 他のみんなも、動けないことに混乱している。

 そんな中、先程の予告とは別のBGMが流れ始めた。


「今度は『おもちゃの交響曲』ですね」


 楽しく軽快な曲に乗って、十三体のテディベア達が一斉に踊るように動き出した。

 取り囲む輪のように配置された僕達の中央の空間に集合する。


 これから楽しいショータイムだと言わんばかりの演出。

 まさにおもちゃの国にでも紛れ込んだかのような可愛らしさが、目前に迫っている復讐劇の一幕と、ひどくアンバランスだ。


「一体、何が始まったんだ……」


 そんな、突如として始まった謎のイベントを、一同はただただ唖然と見守るしかない。

 なにしろその場から一歩も動けないのだから。


「それではこれより、遺産相続を勝ち取るためのゲームを開催いたします」


 幼稚園のお遊戯のように横並びに整列したテディベアの中から、僕のクマ君が第一声を発した。


 今まではビジネスライクな対応の印象だったのに、突然命を宿したように、みんな生き生きとしている。


「ゲームは『Baron Munchausen』が選択されたよ!」

「正直者なら簡単なゲームさ!」

「でも~お、ウソツキなら地獄逝き~っ!」

「クリアできたら、お好きな遺産を一つ進呈させていただきます」

「でも~お、失敗したらその場でぶっ殺しちゃうわよ!」


 クマ君達はランダムな順番で、それぞれに説明を述べ始めた。

 なんだか、子供達が学校での卒業の会などで、一文ごとに区切って、一人一人自分の担当箇所を発表していく贈る言葉みたいなのを思い出す。あれは非常に可愛くて微笑ましい。


 こちらの発表会も、声やしゃべり方に各自のキャラがちゃんと出ていて、見応えがある。こんな状況でなければ楽しめただろうに。

 ただ、確かに可愛いのだが、ちょいちょい物騒な発言をする子がいるな。ゴスロリちゃんだ。なかなかいいキャラをしている。


 目の前の出来事を呆然と眺めていたうちの数名は、言葉の意味を飲み込んで、ざわつき出した。


「ちょっと待ってよ! ゲームって!? いきなり何を言ってるの!? ゲームで誰が遺産をもらうか決めるってこと!?」


 真っ先に我に返ったのは、イネスだった。やはり無神経な性格故に順応性も高いのか。

 レオンも俄然食いついて、質問を重ねる。


「そのゲームがクリアできたら、欲しい遺産がもらえるのか!?」

「その通り! 世界中が喉から手が出るほど欲しがるジェイソン・ヒギンズの超技術が、あなたのものに!」

「魔法と設計図、併せてどど~んとプレゼントよ!」

「早い者勝ちだぞ! 一番乗りを狙う勇者は誰だ!?」


 おお、テレビショッピングのようになってきたな。そして最後の海賊クマ君は威勢がいい。


 それにしても「魔法」と「設計図」を一度にどど~んとプレゼントか。

 十五年前のバトルロイヤルは、「設計図」の方がゲーム終了後の引き渡しだった。結局終了しなかったせいで、前渡しの「魔法」しか受け取っていないはずだが。


 今回は個人で挑戦するタイプのゲームだから、自分の結果だけ出せばそれでいいわけか。

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