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実証実験 1

 ではそろそろ、遺産(魔法)の実証実験に取り掛かってみようか。

 今現在、実践にちょうどいい状況が整いかけているところなのだ。


 執事とメイドのクマ君を引き連れて、僕達はまず近い方の僕の部屋へと向かっている。クマ君に聞いたところ、僕の部屋が二階で、アルフォンス君の部屋は一階だと可愛い声で答えてくれた。


 移動の途中から、アルフォンス君の様子が微かに変わった。いつも通りに見えるが、少しピリつき、僕との距離をより詰めてきた。

 異変を悟らせないように振る舞っているが、彼も気が付いているようだ。知らんぷりを決め込んでいるが、実は僕もだ。


 僕達の後を付けている奴がいる。


 「ああ、ここがコーキさんの部屋ですね」

 

 僕の名前のかかった部屋の扉を見付け、アルフォンス君が警戒の中にもわずかな安堵を滲ませる。


 僕の名前――と言っても、プレートの名前はマリオン・ベアトリクスだ。

 招待状からしてそうだったが、この機動城における僕の権利や待遇は、全てマリオンの名の下に整えられている。


 だからこの部屋も僕専用の個室ということになる。

 一見二十世紀の洋風な趣の扉ながら、鍵は生体認証になっている。割り当てられた自分の部屋なら、普通にドアノブを捻るだけで開けられるのだ。

 ただし、僕が開けられる客室は、このマリオンの部屋だけとも言い換えられる。


 念のためアルフォンス君が試していたが、やはりドアノブは微動だにしない。


「しっかりロックされてますよ。コーキさん、開けてもらえますか?」

「はい」


 僕が入れ替われば、何の抵抗もなくドアノブが回った。


「この点だけは安全材料ですよね。自室に入るだけで、完璧なパニックルームとしても機能するわけですから」


 開いた扉にいったん二人で入ると、当然のように二体のクマ君も一緒に入ってきて、部屋の隅で待機状態になった。


 さて、これからひと仕事だ。


 荷物を置いてから、僕だけ扉の前まで戻った。

 ずっと一緒にいるといった前言を、少しの間だけ撤回しよう。僕は嘘つきなのだ。


 室内の安全確認をしているアルフォンス君に、後ろから声をかける。


「アルフォンス君。五分だけ、お留守番をしていてください。ちょっと君のプレゼントの性能を試してきます」

「は? コーキさん!?」


 ぎょっとして振り返ったアルフォンス君に手を振り、素早く身を翻すように僕だけが外に出た。


 飛びつく勢いで駆け寄ったアルフォンス君の目の前で、扉がバタンと閉まる。おそらく彼は今、必死でドアノブに手をかけているだろう。

 しかしドアノブは、こちらから観察している限りピクリとも動かない。声も音も振動すらもない。

 やはりこの辺りの技術は、レトロに見せかけてもさすがの機動城というべきか。


 この扉は内からも外からも、僕にしか開けられないことが確認できた。

 これで現状アルフォンス君の安全は確実なものとなっているが、僕が帰らないと五日間閉じ込められたままになる点は要注意だ。その意味でも、僕は絶対に無傷で可及的速やかに戻らなければならない。


「すみませんね、アルフォンス君」


 聞こえてはいなくとも、扉越しに謝る。ただでさえ心配症の彼を、死ぬほど狼狽えさせてしまうだろう。分かってはいるが、彼がいたら実験ができないから仕方ない。


 早速、怪しい館で一人になるという一番目の犠牲者になりかねない愚行を僕は犯してしまっているわけだが、五日間を乗り切る上で、これはどうしてもやっておかなければならない必要なテストなのだ。護衛騎士に守られるお姫様状態のままでは、きっと降りかかる災厄を乗り切れない。この悪意に満ちた館では。


 後ろ髪は引かれるが、フォローは後で考えようと、一人で歩き出した。今は目の前の検証に集中するのだ。


 気が付くと、僕の後ろを当然のようにクマ君が付いてきていた。僕は一人で素早く出てきたのに。


「ふふ。君の完全防御は先程試させてもらいましたが、転送機能も駆使できるわけですか。君一体に、どれだけの価値があるんでしょうね」


 隣に並んで、頭をなでる。

 同時に、クマ君達の存在は、見張り以外にも理由があるのだと感じた。どうせ屋敷中に監視の目は張り巡らされている。何もここまで執拗にマンツーマンで寄り添う必要性などないのだから。


 まあどんな理由であっても、僕にとっては傍にいてくれるだけで安心感が増す力強い味方だ。そこで僕のやることを見守っていてほしい。


 と、思う間もなく、突然開いたドアから腕を掴まれ、強引にどこかの一室に引っぱり込まれた。 

 プレートはかかっていなかったので、誰でも出入りできる施錠のない空き室だろう。


 いきなりの力尽くか。予測はしていたので、驚きはない。むしろこれを待ち構えていた。そうでなくては実験ができない。


「よう、確か、コーキだったよな。少し、俺の相手をしてくれよ」


 そう言って僕の前に立ちはだかったのは、レオンのバカ息子のヴィクトールだった。

 アルフォンス君と一つしか違わないとは思えないほど、子供じみた言動の目立つ見るからに粗暴そうな青年だ。

 見回したところ、彼一人で、父親の姿はない。


「人に何かを頼む態度ではありませんが、何の用でしょうか、ヴィクトールさん?」

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