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文化事業

 逆に記録したい目的の作品を明確に持った上での装置の使用なら、情報の絞り込みが簡単で、短時間で済むという。


 僕は鑑賞専門で、創作や演奏などはできない。しかし一度でも見聞きしたものに関しては、かなりの精度で読み取ってくれるのだそうだ。自分では思い出せなくても、無意識化にはすべて記憶されているとかなんとか。


 つまり僕が日本で楽しんでいたモーツアルトも、コナン・ドイルも、こちらの世界で完璧に近い形で再現できるのだという。


 正直それだけでも、金の匂いがご町内中にまで漂う勢いではないか。

 何だったらビートルズでもスターウォーズでも、やりたい放題なのだ。僕以外誰も知らないのだから。


 ただ、こちらの人に何がウケるかは、文化や考え方の違いもあるから、やってみないと分からない。


 魔法使いの少年の物語など、魔法王国辺りなら日常生活の描写になってしまいそうだ。

 ネコ型ロボットの話だと、アイテムの相当数が法に触れてしまうだろう。密出入国(密輸含む)や空の道交法違反はもちろん、マインドコントロール系の道具全般は完全にアウトだ。というか、そもそも自立思考型ロボット自体が違法なのだった。なんということだ。子供の(都合のいい)夢のつまった物語がピカレスクになってしまう。

 ――安易に考えてしまったが、意外と難しいかもしれない。


 とはいえ、おかげさまでチェンジリングは、大した異能を持たない凡人でもほとんど全員が大富豪となるそうだ。創作の苦しみも手間暇もろくなコストもなく“数撃ちゃ当たる”というやつだ。


 それにしても、実に奇妙な事象だと、首を傾げざるを得ない。


 情報は脳に記録されているはずだ。

 しかるに来栖幸喜の脳で経験した出来事までが、現在のマリオンの脳から読み取れるということになる。実に不可解だ。

 少なくとも先程テレビに出ていた先達は、そうやって故郷の娯楽・芸術作品等の記憶を読み取らせて外部メモリに記録し、傑作や、著しく趣味に偏った怪作などを、こちらの世界に送り出している。


 確かに記憶が本体の脳にだけしかないものなら、幸喜として過ごした人生と人格の記憶を持ったまま、今こうしてマリオンの脳で思考がなされていることに矛盾が生ずる。

 魂のようなものが重要な役割を果たしているとしか思えない。

 チェンジリングに関しては、まるで脳だけではなく、その精神からでも読み取れているかのようだ。

 これももっと科学が進んだら解明される謎なのだろうか。


 いずれにしろ専門家ほど、チェンジリングが不可解な現象だと首を捻る理由も納得できるというものだ。


 まあ、専門家というのも、意外といい加減なものではあるから、一概に鵜呑みにはできないのだが。


 テレビに出てくる専門家など最たるものだ。

 以前見て唖然としたのは、アザラシか何かが本来いるべきでない川に迷い込んできた際のニュースだっただろうか。

 女性キャスターは「専門家の話では、何らかの原因で迷い込んだのだろうということです」と原稿を淡々と読み上げたのだ。

 ――それはそうだろう、としか言いようがない。そんなのでいいなら僕だって言える。その何らかの原因をどうにか捻り出して考察し、提示するのが専門家の仕事ではないのか? 一体どこの誰だ。本当に専門家なのかと問い質したいものだ。そもそも何の専門家が該当するのだろうか。動物行動学? 海洋学? 地球環境学? あるいは水族館の飼育員? その現象の考察に相応しい専門家とは何なのだ。専門家を研究する専門家はいないものか。もう番組スタッフが適当に言っただけなのではないかとその報道姿勢を本気で疑った。


 報道姿勢と言えば、朝の星占いなども、よくあのようないい加減なものを報道と並べてお届けできるものだと逆に感心したいくらいだ。

「みずがめ座のあなたは思わぬ事故にご注意を!」の警告の意味が分からない。それはすべての星座の人に言うべきだ。なぜみずがめ座限定なのか。

 適当な忠告を安易に実行した結果不利益を被ったと、詐欺で訴えるクレーマーが確実にいるはずだ。

 実際、「ピンクの小物がラッキーを呼び込むかも♡」を真に受けた新人看護士の多田さんが、入院患者の中でも特に気難しい横山さんにピンクのヘアピンを見咎められて、看護師とは何たるかというご高説に見せかけたネチネチとした嫌味に執拗に見舞われる羽目に陥った。ピンの色など何色でもいいだろうなどと擁護でもしようものなら被害が拡大するから、うっかり口出しもできないのだ。いらないアドバイスのせいでとんだアンラッキーを呼び込んだものだ。それでも彼女は毎朝の星占いチェックを欠かさず続けていたのだから、傍目にはほとんど宗教の信仰としか思えない業の深さを垣間見た気がした。

 そもそも報道機関を名乗るなら、何の根拠もない占いなどというものを電波に乗せるのはいかがなものか。詐欺や風説の流布には当たらないのだろうか。“この物語はフィクションです”と最後に添えておけば、なんでも通用するとでも思っているのではないだろうか。それをやっていいのは本物のフィクションだけだ。


 はて、ところで僕は何を考えていたのだったか。


 横道から更に横道に逸れてしまった。本道から逸れすぎて、もはや獣道を探すのも難しい。

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