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オーディオルーム

 滞在三日目となる翌朝、朝食のため食堂に来た面子は、一人を除いて昨日と同じだった。五人が四人になっているが、減った一人は死んだベルトランだ。


 クロードは連日の惨事でも、相変わらずマイペースで、そこはまあ予想通りといったところか。一方で、昨夜の様子を振り返れば、イネスファミリーも来たのは少々意外だった。

 昨日と違うのは、キトリーがいないため三人揃ってやってきたことだ。


 子供の食事を抜くなんてありえないというイネスの教育方針のためらしいが、やはり気軽に声もかけられないほどどんよりしている。

 普段は姦しいイネスだが、さすがに今はおしゃべりも食事もする気力がないようで、食べている孫達を静かに見守りながらお茶を飲むだけだった。

 キトリーがいない今、自分が孫達を守っていかなければという強い意志がうかがえる。


 ちょっと無闇に話しかけられない雰囲気だったので、最初に少し挨拶をしただけであとはそっとしておくことにした。

 子供達には同情するが、下手な慰めや、ましてや残酷な希望を持たせるような言葉をかけるくらいなら、深入りせずにフェードアウトしてやった方が余程親切というものだろう。


 というかたとえ関りを最小限にしても、この空間自体、おしゃべりを楽しみながらゆったり食事、なんてとてもできない居心地の悪さだ。

 少し間を空けた席に陣取って、手早く朝食をすませると、また軽く挨拶をして早々に退散した。


「いや~、マジでかなわねえなあ。こんなのが明後日まで続くのか? 時間帯もずらせねえからキツイなあ」


 僕達に便乗して、一緒に食堂から出てきたクロードがぼやいた。


「そうですね」


 四泊五日の日程のまだ三日目。不謹慎だが同感だ。

 キトリーの死の事実は、今日中にも明るみに出るだろう。子供達に待ち受ける試練を思うと、さすがの僕も胸が痛む。僕ですらそうなのだから、僕よりずっと人の好いアルフォンス君など罪悪感で同じ空間にいるのも辛いはず。ちょっかいを出してくるクロードに応える余裕もないのだから。

 やはり地雷とは適度な距離を保っておくのが無難だ。


「お前ら、今日も探索だろ? どこ行くの?」


 愚痴った割に、クロードは一瞬でいつものあっけらかんとした口調に切り替わる。


「今日の最初は、オーディオルームです」

「答えなくていいですよ、コーキさん」


 次の展開が読めたのか面倒臭そうにアルフォンス君が止めるが、もう手遅れだったらしい。


「オーディオルーム! 俺も一緒に行くわ」


 クロードは返事も待たず、面白そうに同行を宣言する。


「昨日行った部屋が多分そうなんだと思うんだけどさ、装置の使い方が分からなくて諦めたんだよ。コーキなら分かるだろ?」

「それは見てみないと何とも」


答える僕の隣でアルフォンス君は嫌そうに顔をしかめるが、特に拒絶はしなかった。代わりに不機嫌さ全開で釘を刺す。


「邪魔はするなよ。あとコーキさんに余計なちょっかい出すな」

「オッケーオッケー。必要なちょっかいだけにしとく」

「そんなものはない!」


 クロードの軽いノリに、アルフォンス君も徐々に普段の調子に戻ってきて、お約束の従兄弟漫才な展開になる。

 クロードのこういうところは本当に感心するな。全面的な信用はしないが、いてくれて助かることは多い。


 せっかく評価してやっているのに、クロードはオーディオルームの話に戻すと、可愛いクマ君をディスり出す。


「テディベアに使い方聞いても全然答えねえし。もっとロボットらしい仕事してくれりゃいいのに、せいぜい給仕くらいしかしねえんだから、全然使えねえよなあ」


 機動城内のレトロな機械の操作や、生活全般のフォローなど、本来ロボットに期待される仕事をしてくれない不満を漏らしている。


「何を言ってるんですか。こんな可愛いクマ君が給仕をしてくれるなんて夢のようじゃないですか。殺伐としたこの屋敷で唯一の癒しですよ」


 もちろん僕は即反論する。この子達には心があるのだから、本人の目の前で文句を言うなんて言語道断だ。

 それにこのクマ君には、癒し以上の価値があるのにと、僕の執事クマ君の頭をなでる。ほら、僕を見返したクマ君の目が嬉しそうじゃないか。


「いやいや、それ、殺伐の筆頭だろうが。ゲームの後でも変わらず可愛がれるお前の方がおかしいって」

「それは俺も同感だ」


 呆れるクロードに、アルフォンス君もすかさず同意し、ずっと自分の傍に付き添っているメイドクマ君を諦めの目で溜め息混じりに見下ろす。


「まあ、こっちの割り当てがウチのと同タイプだったのがせめてもの救いだったのかな」

「確かに他の子達よりは身近に感じますね。見た目がうちの子と同じですから」


 僕も、執事クマ君をなでながら頷いた。それぞれキャラの違った十三体のクマ君達だが、僕達の担当は市販タイプの執事・メイド型なので、自宅にいる家事ロボットのテディベアとそっくりなのだ。おかげでアルフォンス君の精神上にも大分良いようだ。


 しかし僕達のこの言動にクロードが少しキョトンとし、しばらく怪訝そうな表情をした。


「――そうか、お前知らなかったんだっけ。お前んちのテディベアって……あれ……? じゃあ、何で……」


 何かぶつぶつと言いながら、僕達二人と、二体のクマ君を見比べている。


 どうも風向きが怪しいな。僕も少しばかり対応を間違ってしまったか。

 彼は意外とカンがいいから、もしかして気が付かずにいいことに気が付いてしまったのかもしれない。


 アルフォンス君は知らないようだが、我が家にいるメイド服のクマ君――あれには実はちょっとした秘密があるのだ。

 そもそもあれの由来は、十三歳の時の誕生日プレゼントだった。マリオンとルシアンは双子なので、プレゼント交換のような形になるわけだが、まだ資金源は親だったものの、ルシアンがマリオンのために選んだものだ。

  まあ秘密と言っても、余程のこだわりでもない限りはどうでもいい程度のものなので、その一年後にベアトリクス家に引き取られたアルフォンス君に気が付けるわけもない。

 もちろんこだわりのある僕にはすぐ分かったが。


 それ自体は大したことではないが、そこから関連して、あまりよろしくない結論に達してしまうのは非常にマズい。


 アルフォンス君は訝し気に従兄を見返す。


「なんだよ」

「いや、もう時効だし、いいよな。俺もルシアンから、お前とマリオンには内緒なってことで聞いたんだけど……」

「到着しましたよ」


 なんだか言いかけて途中でやめるのは殺されフラグが立ったようで縁起が悪いが、僕は遠慮なく話をぶった切ってやった。

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