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幕間 走馬灯(BV)1

 ベルトラン・ヴェルヌ



 私はいくつもの選択を間違った。

 本当に、魔が差したとしか言いようがない。破産目前の追い詰められた精神状態の時、鼻先にぶら下げられた桁違いの遺産に目がくらんだ。


 殺人という遺産を得るための課題で、全員が血縁の中で一体誰を殺すのか――普通なら困難な取捨選択だが、私には比較的簡単に決断できてしまったのも災いした。母親の違う下の三人の弟は年齢も離れていて関わりもほとんどなかったせいで、妹やその家族よりも別家庭の他人に近い感覚だった。


 そして弟を殺して得た魔法は、完全防御だった。

 私が個人的に完璧な防御力を誇ったところで、この平和で安全な国では何の意味もない。莫大な富を生むのは、設計図の方だ。


 もう引き返せない。何をおいても、残る設計図を手に入れなければ。

 そう思い詰めていたところで、レオンが得た魔法が『洗脳』だったと知り、天が味方したと錯覚してしまった。

 残り時間もまだあると思い込んでいた。少なくとも時間内には全員が一度集合することになっていたから、アデライドとジュリアンに暗示をかけて一人ずつ殺させる猶予くらいはあると……。

 屋敷中の時計がいつの間にか遅れていたことにも気が付かずに。今思えば、あれも誰とも知らぬ監視者の悪意の仕掛けだったのだろうか。

 これからという時に、突然屋敷の門前に飛ばされていた。招待の時間の終了に伴って。


 しかし何が幸いするかは分からないものだ。

 役に立つものは何も得られなかったと思ったが、事件のおかげで一躍時の人となり、失った信用を取り返すチャンスがいくつも舞い込んだ。

 結果的に、倒産寸前の会社が、以前よりも大きく成長したほどだ。


 もう十分だ。これ以上はもういいから、家族で平穏な暮らしを守りたい。二度とあんな忌まわしい場所には戻りたくない。


 弟を殺した十字架を背負い、それだけを願ったが、それは叶わなかった。

 十五年後、マリオンは私達が押し付けた罪を背負って処刑され、それによって、再び機動城へと舞い戻ることになってしまった。

 まさに絵に描いたような因果応報だ。


 すでにルールは知っている。同じく知る者――特に遺産への野心をむき出しにしているレオンは要注意だ。とにかく家族だけは完全防御で守ろうと警戒はしていたが、始まったのは、まったく別の命懸けのゲームだった。まるでかつての事件の真相を炙り出すために用意されたかのような。

 

 レオンの処刑を見届け、私も覚悟した。


 きっと、平穏には終われない。あのゲームの挑戦者に選ばれれば、私の犯した犯罪は家族に知られてしまう。遺産云々より、それが何よりも辛い。


 この状況で、一体どれだけのものをこの手に残せるか。

 考えに考えた末、自分と家族の人生を守るために、最も価値の高い技術を手に入れようと決めた。

 『防御』と『転移』のいずれかでも相続できれば、想像を絶する資産が手に入るとは、あちこちの筋からうんざりするほど聞かされてきた。

 私に取れる手段は、どちらかを手土産にして、自由の身を勝ち取り、余生を安楽に暮らせて、なおかつ迷惑をかける家族にも遺せるだけの潤沢な資産を得て許しを請うことだ。


 ゲームの挑戦者に選ばれた時には、ああ、やはりかと、むしろ納得する部分すらあった。復讐者『女王の亡霊』が誰かは知らないが、とにかく正直に真相を語り、罪を償う意志を伝えよう。なんとしても生き延びるために、正攻法で全力を尽くす。罪悪感はあるが、いくら何でもあんな死に方はしたくない。


 すでに心積もりは決まっていたので、最初から冷静さは保てていたと思う。


 希望の遺産の選択を迫られた時、少し迷ったが、やはり『完全防御』を選んだ。

 すでに半分でも持っている『防御』よりは、魔法と設計図の両方が得られる『転移』ができれば欲しかったが、レオンの死に様がちらついて、どうしても選べなかった。

 いくつかの候補が並んだ遺産のリストには、黒い文字と、グレーの文字があって、『完全防御』は、魔法がグレー、設計図が黒で表記されていた。

 どうやらすでに相続済みのものについては、選択できなくなっているようだ。レオンが持っていた『洗脳』は両方とも黒文字で選択可となっていたから、死んだら相続済みの遺産も戻されてしまうらしい。ああ、だったら『洗脳』を手に入れて全てをなかったことにしたかった。コーキが余計なことさえ提案しなければ……。


 それから気になっていた謎の答えが分かった。グレーの文字が、他に二つ。両方とも魔法。すなわち、他の二人がそれぞれ相続した遺産だ。


 そのうちの一つは『治癒』とあり、私はちらりとコーキ見る。


 十五年前のラウルとマリオンの一騎打ち。レオンも言っていたが、間近で見ていた私も、あれは相討ちだと思った。実際マリオンの服には、刃物が貫いた穴も開いていたのだ。

 しかしマリオンはまったくの無傷だった。おそらく一瞬早くマリオンが勝利し、運よく回復の類の魔法を受け継いでギリギリで対処できたためだろうと予想していたが、やはりそうだったのだな。


 コーキが今持っているはずの『治癒』が、マリオンが相続した魔法だとしたら、もう一つが()()()の持つ魔法か。そう考えながら内容を確認し、見た瞬間にギクリとした。


 この魔法を、あいつが持っている?

 嘘だろう、こんなの誰も敵わないじゃないか――一瞬そう思ってから、しかし、いや、そうでもないのか?と考え直す。


 とにかく環境に著しく依存する能力だ。アルグランジュ人の私なら恐れるが、おそらく魔法の本場のアルテアン魔法王国辺りなら、ほとんど役に立たない魔法だろう。ましてやこのあまりにも特殊すぎる機動城内においては、使えない可能性がかなり高いんじゃないか?

 だからあいつは現状大人しくしているのか? 機動城内では無力同然だから。


 だがこれも私から見れば、『防御』『転移』に匹敵するアタリ能力だ。レオンの『洗脳』など目じゃない。犯罪に繋がるから公表こそできないが、私がこれを相続していたなら、この十五年間、全てが思いのままになっていただろう。


 だが今は余計なことを考えている場合じゃない。まずはこの十分間を乗り越えることが先決だ。


 そして立たされた『完全防御』のゲームの舞台に、また選択を間違ったことを知った。

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