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自供

 静寂の中、十分間のタイマーがカウントダウンを始める。


 固唾を飲むギャラリーの視線を受けながら、ベルトランは静かに語り出した。


「昨日の話し合いでは、もし次のゲームでも十五年前の犯人が挑戦者になったら、それがゲームの参加資格と見なすと言っていたな」


 すっかり観念した様子で、冒頭からゲームクリアの第一条件をまず達成だ。


「もう、みんなも薄々分かっているだろう。十五年前、弟のセヴランを殺したのは私だ。それが私の一番の秘密だ」


 昨日のレオンのゲームの時には、秘密の告白は最後の最後で言い逃げるべきだと考えた。もし一番目がベルトランだったなら、善人面のままのらりくらりと世間話で時間を潰し、ラスト十秒で一言言うだけ、という作戦は成立しただろう。

 だが、昨夜の食堂での話し合いで、その前提はひっくり返った。

 まず十五年前の犯人か否か、真っ先に白黒つけることが、今後のゲーム挑戦者の最初にすべきお約束だ。

 それに則り、ベルトランは淡々と自供した。


 アデライドとジュリアンが、受け入れがたい事実に表情を強張らす。しかし思うことはたくさんあっても、家族の命がかかっている状況で、一言も発することはできなかった。もう、一切の邪魔をせずに黙って見守るしかないのだ。


 とにかくこれでアルフォンス君が宣言した通り、ゲームの参加資格は「十五年前の事件での殺人者」――という前提が出来上がったわけだな。まあ実際、僕とあともう一人は、それに合致しているので間違いではない。本当の条件より、くくりが少しばかり小さいだけだ。


「あの頃の私は、仕事で大きな失敗をして、人生をかけて築き上げてきた会社が潰れる瀬戸際だった」


 あとは十分間弱、残った時間を埋める作業だ。

 べルトランは落ち着いた口調で、当時のことを正直に語っていく。詐欺に引っかかり、偽物を大金で仕入れた上、販売した後で発覚してしまったことで信用を失い大借金を抱えて進退窮まっていたという。

 そこに舞い込んできた遺産相続の話は、地獄に差した一条の光だった。


 まだ魔法使いクマ君は一歩も動いていない。

 ベルトランの職業は古美術商。長年の接客の賜物か、話術も達者だ。


 まあ、予想通りというべきか、結局はそこに落ち着くだろうというくらい順当な対応策だな。僕も小細工含め散々考えたが、結局正攻法が一番生き延びる可能性が高いやり方だと思う。

 洗脳という切り札に溺れたレオンが愚かすぎただけだ。


 身内の――特に娘と孫の前で己の犯罪の告白をするのは相当に居たたまれないものではあるが、彼は完全に気持ちを切り替えている。

 レオンの時とは正反対に、静寂の中、ただベルトランの告白だけが続けられる。


「――っ!!?」


 途中、どこからともなく湧き出した水が、十数センチほど牢獄の中を満たした。


 初めて出た嘘判定の瞬間、全員に緊張が走る。

 ベルトランのくるぶしより上くらいまでが、水に浸かってしまう。


 このペナルティーは、一文が言い切られた後でマイナスポイント分がまとめて加えられるため、長い文章だとどこが対象だったのか絞りにくい。さっきのベルトランも嘘判定に驚いていた様子なので、嘘を吐いたのではなく、勘違いか些細な言葉の綾のせいだったのかもしれない。


 しかしまだ一回だ。ベルトランは気を取り直して、冷静なまま話を続ける。


 僕は話を聞きながら、水の牢獄についての考察をする。

 ベルトランの身長――すなわち牢獄の高さは175センチ前後。目測になるが、1ペナルティにつき水の増量があれで一定なら、許される猶予は『転移』の場合と同等と考えていいようだ。ところで10センチ以上身長の低い僕にも、きちんと調整して同じ回数で対応してくれるのだろうか――多分ゲームの公平性を考えれば大丈夫だとは思うが……。

 まあともかく、やはりどう考えても転移の方が有利だなと、はっきり結論を出した。

 人によっては、唸りを上げながら目前に迫りくるチェーンソーよりは、水に浸かる方がまだ恐怖心が抑えられる、という心理面での耐性の違いはあるかもしれないが、もっと実利面で無視できない大きな差がある。


 僕の考察をよそに、告白は核心に入っていく。


 破産目前で、最後の希望をかけて臨んだ遺産相続は、まったく訳の分からないものだった。

 手掛かり一つなく時間は無為に過ぎ、残り数時間となった時に、事態は動いた。

 当時サロンはたまり場となっていて、行けば誰かしらいる場所だった。その時も先客が二人いた。そのうちの一人は息子のラウルだ。少しでも情報交換をしようとしていたところで、壁にかかっていたコレクションの短剣がごとりと床に落ちた。


「私が拾ったんだ。その時に、頭の中に相続の方法が突然入ってきた。その辺は昨日レオンが言っていたのと同じだ。武器に触れると、情報が伝わるようになっていたんだろう。驚いて、思わず短剣を取り落としてしまった。それで※※※※が……ああ、名前は言えないんだったか……とにかく傍にいた※※※※に先に拾われて、結局、※※※※と、私とラウル――その場にいる全員に情報が共有された。一人殺したら、何らかの魔法が相続できると。……ちょうどそこに、かくれんぼの鬼としてルシアンがやってきてしまった」


 しがみ付くように僕を後ろから抱えているアルフォンス君の腕に、力が入ったのが分かった。


「もう、考える暇もなかった。子供達を見なかったかと聞きながら、いつものように無防備に近付いてくるルシアンを、※※※※がいきなり正面から刺したんだ」


 僕の頭上で、声にならない悲鳴のような息が漏れる。見上げたアルフォンス君の表情に、僕も苦しみを共有する。震える腕に、なだめるように手を添えた。


 彼の怒りが、伝わってくる。

 それでも、最初の約束通り、判明した犯人に対して、アルフォンス君は一言も言葉を発さない。

 十五年目にしてようやく解明されつつある真相を前に、怒りと悔しさで、唇をかみしめるだけだ。


「その時、上の方から悲鳴が聞こえた。そこの二階ギャラリーに、マリオンが隠れていたんだ。通路の床に身を伏せていたようだった。声までは届かなくとも、上から全部見られていた。突然弟が刺されたんだ。マリオンはルシアンの名を叫びながら、内階段を駆け下りてきた」


 短剣はすぐに引き抜かれたせいで出血が激しく、ルシアンはどう見ても致命傷だったという。


「マリオンは※※※※を突き飛ばしてルシアンの脇にしゃがみこむと、胸から噴き出す血を止めようと、必死でその傷口を手で抑え始めた。私とラウルは、それを呆然と眺めていた」


 マリオンは泣き叫ぶように、周りのロボット達に治療や外部への連絡を頼んだが、反応するものはこれまで通り――まったくなかった。

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