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完全防御

「さあ、何を選ぶ!?」


 海賊クマ君に勇ましく問われたベルトランは、しばらく迷った末に答えた。


「――『完全防御』を……」


 ああ、やってしまったな。でもありがとう――僕は内心でほくそ笑む。


「『完全防御』は、すでに“魔法”が譲渡済みのため、“設計図”のみの相続となりますが、よろしいかしら?」

「かまわない」


 お姫様の確認に、ベルトランは分かっているとばかりに頷く。


 ああ、やはりベルトランの魔法は『完全防御』だったんだなと、僕は答え合わせの解答を得る。

 ヴィクトールに、僕の魔法が治癒・回復系か防御系のどちらかじゃないかと言われた時に、もしかしてとは思っていた。


 ベルトランは、マリオンが相続した魔法は治癒系だと考えていたらしい。それがマリオン対ラウルの殺し合いを間近で見ていた上での結論とするならば――。

 攻撃を受けて無事だった場合、普通はむしろ防御系を疑うはずだ。レオンの証言によれば、相討ちに見えたが、マリオンは気を失っただけだったというのだから。

 なのに僕の魔法を治癒系と予測して、防御系の可能性を始めから除外していたとするなら、その理由はベルトラン自身が先に相続していたためではないか――と考えた。


 そう結論付ければ、特に強そうでも豪胆でもない普通の年寄りのベルトランが、何が起こるかも分からない機動城内を一人で気軽に歩き回れたのも合点がいくというものだ。誰も彼を傷付けられないのだから。


 つまり現在相続されている魔法は、『治癒』系、『完全防御』、そして『僕の魔法』の三つで確定と見ていいだろう。


 そしてすでに『完全防御』の“魔法”のみ所持していたベルトランは、残る“設計図”の方を選択し、完全な形で手に入れようと決断したわけだ。


 軍曹の遺産で、桁違いの価値が見込まれる技術は、現在判明しているのが『完全防御』と『転移』。更に、あると予測されているものの中では『重力制御』と『空間操作』辺りか。

 そこから考えれば、彼の選択も理解できる。

 『転移』のゲームはあの通り、突き刺された心臓だけが体外に転移された。騎士クマ君は『転移のアイテム、サーベル』とか言っていたか。つまり、選んだ魔法ごとに、専用のアイテムなり装置なりがあるのだろう。

 もし『重力制御』『空間操作』も、それにちなんだ仕掛けがゲームに組み込まれているとしたら、相当に嫌な予感を呼び起こす響きがある。語感だけとっても、『完全防御』が一番無難そうな気分にはなる。


 ベルトランがそこまで考えているかは知らないが、いずれにしろ彼の選択は、完全に悪手だと思う。

 僕なら確実に『転移』を選ぶ。


 レオンのあの死に様を目の当たりにすれば、特に『転移』に手を出すのは、怖気づいてしまっても無理はない。ジェイソンのチェーンソーで生きたまま心臓をえぐられるなんて、想像しただけで恐怖に背筋が凍る。避けられるものなら何をおいても避けたい。同じ舞台に立つには、相当に勇気がいるだろう。


 だがそれを押しても、『転移』以外の選択肢はない。もっとも重要なのは、魔法の価値よりもまず自分が生き延びることだ。

 絶対に失敗できない一発勝負の状況で、まったく未知のゲームに挑む方が余程恐ろしい。運を天に任せすぎだ。転移よりマシな舞台装置である保証など、どこにもないじゃないか。だったら既出のものの方が、心理的負担は少ない。このゲーム攻略の最大ポイントはフラットなメンタルの維持なのだから。


 まあ、あとに控えている僕の立場から言わせてもらえれば、新しい情報を引き出してくれてありがとう、となるわけだが。

 これで僕は、ベルトランが失敗した後、自分の順番が来た時に、判明した二つの選択肢からより難易度の低い方を選べるというものだ。


「それでは! 二人目の挑戦者は! 『完全防御』選択でけって~~~~いっ!!」


 宣言とともに、各クマ君はそれぞれの張り付き対象の元へと戻り、ベルトランのクマ君だけは、彼の正面へと立ち、向かい合う。


 騎士クマ君の時と比べると、最初から距離が近い。二メートルも離れていない。

 ちなみにベルトランのクマ君は、黒いローブの魔法使いだ。もふもふの手で長い杖も持っている。持っているというか、磁石のように張り付いている、の方が正確か? ともかくネコ型のやつと同じ感じだ。


 魔法使いクマ君が、可愛い声で高らかに叫ぶ。


「『完全防御』のステージ、水の牢獄、発動!」


 その声と同時に、直径1メートルほどの円柱の薄青い光が、ベルトランを閉じ込めるように包んだ。天井も閉じられていて、ベルトランの身長がちょうど収まるほどの高さだ。ケースに展示される人形みたいになっている。


 おお、なんかかっこいい。でも光の牢獄ではなく、水の牢獄なんだなと、変なところが引っかかる。


 一回目と同様、箇条書きのルールが明記された光学モニターと、まだ十分間を残したままのデジタルタイマーが空中に現れた。


 舞台装置が整ったところで、クマ君達のルール説明が始まる。と言っても、前回よりは大分簡潔だ。


「ルールは前回と同じ!」

「あなたの一番の秘密を話してください!」

「時間は十分間よ!」

「『沈黙五秒』と『嘘』がマイナス1ポイント!」

「質問への『無回答』と『嘘』は、マイナス2ポイント!」

「マイナス1ポイントごとに、牢獄の中に水が増えていくよ!」

「牢獄の中が水で満タンになったらゲームオーバーとなるのだ!」

「ドザえもんのできあがり~~~~! 拍手~~~~~~!!」


 楽しそうなクマ君達。対照的に、その意味を理解したギャラリー一同が絶句した。


 さすがに僕もドン引いた。

 うわあ、これはえげつない。だから水の牢獄か。


 『完全防御』――はっきり言って、とんでもない大ハズレじゃないか。『転移』の方が断然マシだった。そしてオチ担当のゴスロリちゃんはなぜ()()を知っている。最初の二文字だけカタカナの響きを感じた気がするが、軍曹の知識には絶対にないもののはず。いや、連載開始は五十年以上前。ギリ知っている可能性もある!? これまでの傾向を見るとどう考えても軍曹はロボット好きだし、はっ、まさかクマ君のペタリハンドも――いやいや、深く考えるのはやめておこう。きっと僕のいつもの考えすぎだ。考察も楽しそうだが今は脇道に逸れている余裕はない。


 思考を戻してステージを見れば、落ち着いていたベルトランも、さすがに顔を引きつらせていた。

 だが、ここで最も重要なのは冷静さだ。それを理解している彼は、深く息を吐いて、覚悟の表情で顔を上げた。

 全てを弾くはずの完全防御壁の内側で、彼の戦いが始まる。


 取り囲むギャラリー、特にベルトランの家族が緊迫の様相で見守る中、BGMの代わりに、ドラムロールが鳴り始める。

 銅鑼の音が派手に響き――。


「では、ゲームスタート!」


 二度目のゲームが始まった。

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