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誰か

「ええ~、まさか、よみがえってきた死人が襲ってきたりしないよね?」


 びくびくと気の抜けた不安を漏らすジュリアンに、またもや緊迫感が紛れる。せっかくいい感じに悪い空気になったのに、彼は意外と天然なクセモノかもしれない。

 三歳以後から親戚付き合いがほとんどなくなったため、関係性の薄い被害者に対する悲壮感があまりない。


 ちなみにこちらの世界にも、ゾンビの概念はある。というか、魔法王国の方には正式な書類の職業欄に、ネクロマンサーと記入する人が実在しているらしい。非常に心躍る話だ。


 普通ならただの与太話で終わるはずだが、意外にもイネスが真面目な顔で同意を示す。


「でも、十五年ぶりにここに来た私達よりは、よっぽど犯人としての信憑性があるんじゃない? 生きてたとしたら、この館に残されて、十五年間も準備期間があったってことだもの。自分を殺そうとした相手に、復讐しようとしてるのかも。だったら、生きているのに私達の前に出てこない理由も分かるわ」


 なかなか鋭い意見を言い、更に続ける。


「大体、館に入ってすぐの私達に、いきなりあんな段取りが取れるのか疑問だもの。ゲームを選んだ人がいるなんて言われても、みんな誰かしらと集団行動していたんだし。――あら? でも逆に、一人になった隙にならできるのかしら? そういえばクロード、食堂には後から一人で来たわよね?」


 その発言に、全員の視線がクロードに向く。

 イネスは本当に、他意なく混乱を招くのに素晴らしい人材だなと感心したくなる。天然なのか、わざとなのか、紛らわしい。

 そして指摘についてだが、実際にはゲームは玄関ホールに全員で閉じ込められている間に選択されていたので、完全に見当違いだったりするのもまた素晴らしい。


「だから、俺じゃねえって! 確かに一人で出歩いてたけど!」


 再度潔白を訴えるクロードに、僕も大袈裟に疑いの目を向ける。


「おや、アリバイがないとなると怪しいですねえ」

「何、コーキ!? 俺を信用してくれねえの!?」

「当然です。君と会ったのは、今日でまだ二回目です」

「ひでえ!!」

「冗談です。単独行動をしたと言うなら、レオンさん、ヴィクトールさん、ベルトランさん、アデライドさんと、事件現場探索組はほとんどそうです。僕だって身内のアルフォンス君と二人での行動なので、あまりアリバイにはならないでしょうし。そこはあまり追及しても埒が明かないですね」

「お前の冗談笑えねえよ!」

「よく言われます」


 割と僕の冗談の理解者っぽかったクロードにまでさじを投げられてしまった。


「冗談はそれくらいにしておいてくれ。それよりこんな恐ろしい館で、これからどうやって過ごせばいいんだ?」


 顔色を悪くしながらも、ベルトランがこれからの方針を全員に問いかける。


「まあ、当初みてえに行楽気分でのんびりとは過ごせねえよな」


 クロードの発言に、それぞれ思案顔をする中、真っ先に結論を出したのはイネスだ。

 

「本来なら全員で固まってる方がいいのかもしれないけど、うちは抜けさせてもらうわ。この中に人殺しがいると言われて、一緒にはいられないから。家族四人で、可能な限り部屋にこもってるつもりよ」


 一家の長として、独断でクーロン家の方針を宣言する。

 隣のソファーセットから、孫達が少し不満そうに訴える視線を返した。しかし現実問題として、ほとんど鬱気味な状態の母親のこともあり、黙って受け入れるしかないといった風情だ。


「では、それぞれ家族でまとまって部屋にこもり、食事の時間だけ顔を合わせるようにするということでいいか?」

「だったら生存確認のためにも、食事に出ない時は電話か放送で連絡をするようにした方がいいですね」


 ベルトランの確認と僕の補足に、特に反対は出なかった。解散前に電話の使い方を説明しておかないとだ。


 家族単位でまとまると、ベルトラン一家、ベレニス一家、イネス一家、僕とアルフォンス君となり、クロードだけが一人であぶれることになる。


「ああ、俺、団体行動苦手だから、一人で構わねえぜ? 正直、ずっと部屋に引きこもってるつもりもねえし。それともコーキ、俺の部屋来る?」

「遠慮しますよ」

「冷てえなあ」


 いつもの調子のクロードに、僕は淡々と断る。

 もちろん、アルフォンス君以外は誰も信用しないと、初めから決めているからだ。セーフルームに不確定要素を自ら引き入れてどうするという話だ。全然セーフじゃなくなってしまう。


「普通だったら一人になった人間から消されていくのがセオリーでしょうが、むしろ本当に信頼する相手以外とすごすくらいなら、一人で部屋にこもっている方がよほど安全というものですよ、クロードさん。ゲームに関しては、どうせどこにいようが強制転移で呼び付けられるようですし」


 物語なら、危険性が予見できている状況下でなぜ一人になるのか、ほら案の定襲われたじゃないかと、しばしばツッコミたくなる展開が氾濫しているが、機動城では前提がまったく違う。

 他のみんながそれぞれの家族単位で常に一緒にいるというのであれば、クロードだけ一人というのは逆にありだ。

 そんな中で近付いてくる人間は、最初から警戒できる。また犯人にしても、何も知らない家族の手前、あまり自由には動けない。


「あ、ああああっ!?」

 

 話し合いが大体まとまりかけたところで不意に、隣のソファーの方から、引きつるような恐怖の滲む悲鳴が聞こえた。


 少し距離を置いて、ぐったりと休んでいるキトリーの声のようだ。


 僕が集めた資料では、若い頃はなかなか活動的なお嬢さんだったことが記されているが、現在の彼女は著しく存在感がない。母親のイネスがおしゃべりなだけに、非常に対象的だ。

 ただでさえ最初から怯えている様子だったのだが、一連の事件ですっかり精神的に参ってしまって、話し合いに参加する気力もない。


 そんなキトリーの異状に何事かと目を向ける僕達に、更なる声が響く。


「誰かいる!!」


 怯えるキトリーに寄り添うルネが、廊下側の窓を指差して叫んだのだ。


 声と同時に、アルフォンス君が席を立って駆け出し、一番近い扉から食堂を飛び出した。その迅速さに、さすがに付いていきそこねる。


 一分ほど待っても戻ってこず、その場に動揺が広がっていく。

 とりあえず僕も様子を見に行こうかと立ち上がったところで、アルフォンス君が出た時とは別の扉から入ってきた。


「――誰もいませんでした」


 険しい表情で、そう報告した。

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