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第19話 たとえ契約結婚だったとしても

「改めて、冬の妖精王アルバートだ」

「は、はい(さっきも挨拶をしたはずなのに、どうして仕切り直しみたいな感じなの?)」


 ソファに腰掛けていた私に対して、片膝を突いて騎士のように挨拶をする姿にドキドキしてしまった。先ほどとは雰囲気が異なり、親しげに話してくる。


「さっきは緊張して……その、何分、この領地に思い人――というか、サティと話をできるのを楽しみにしていたのだ」

「ノワールから色々聞いたのですね!」


 アルバート様は一瞬戸惑いながらも「ああ、うん」と言葉を濁す。


「こほん。サティ様、お初にお目にかかります。アルバート様の眷族の一人、この屋敷の執事長のシルエと申します」


 外見は十代の青年だろうか。背中の羽根は蝶のように綺麗だ。

 灰色の前髪で顔半分を覆っていて、黒い眼帯をしているのが何ともカッコいい。黒を基調とした執事服も似合っている。

 思わず凝視してしまったので、シルエは「どうかしましたか?」と微笑む。紳士的な姿は中々にグッとくるものだ。


「……サティはシルエのような者が好きなのか?」

「え!? えっと……冬の妖精らしいというか、髪の色が雪の色っぽいなと思って」

「漆黒の髪は……冬らしくないか?」

「え?」


 ポツリと呟いたアルバート様は何だか拗ねているようで、しょんぼりしてしまっている。しかしその姿はノワールが落ち込んだ姿とそっくりなので、流石は主従関係にあるだけはあると感心してしまった。


「ふふっ、そんなことありません。冬の夜空みたいな黒い髪は、ノワールと一緒で温かくて好きです」

「すき……」

「はい!」


 一瞬で機嫌が良くなるのも本当にノワールそっくりだ。凜々しい顔立ちをしているが、こんな風に笑うとまた印象が変わってくる。


(最初は冷たい人かもしれないって思ったけれど、そんなことないかも)


 そんなこんなでテーブル囲んで食事をしつつ、アルバート様は現状を話してくれた。テーブルには肉料理から魚までどれも私が好きな食材が並んでいる。

 特にスープ系は南瓜のクリームスープだ。


「んんー、美味しい!」

「それは良かった」

(笑うとやっぱり雰囲気が全然違う。アルバート様は、このノックマの丘に住む冬の妖精王。冬イコール死を連想させるから死の妖精王なんて不名誉な二つ名があるっていうのも、本人はあんまり気にしてないみたい)


 アルバート様から威圧感のような、ただならぬ雰囲気は感じられるが怖くはない。私に対して親しみがあるからかもしれないが。


「ミデルは長年、エーティンの生まれ変わりを探していてサティ、君を見つけた。本来であれば奇跡のような再会になるのだが……。ミデルはエーティンであることに拘ったあまり、君の意志を尊重することをせず一方的に気持ちを押しつけた。……ここまでは合っているかな?」

「……はい」

「ミデルには君を保護していると連絡を入れている」

「あ……」


 鶏肉を切り分けていたナイフとフォークの手が止まる。追っ手から助けてくれた恩人にこれ以上望むのは図々しい。

 そう身構えていたのだが、私の表情を読み取ったのかアルバート様は言葉を続けた。


「今、君の頭上には二つの選択肢がある。一つはミデルの元に戻ること。もう一つは俺――私と契約結婚をしてここで、一緒に暮らすこと」

「え」


 まさか選択肢を用意されているとは思わず、固まってしまった。思えば今まで出会ってきた人たちは、選択肢をあるように見せて自分たちの都合を私に押しつけてきた。

 私のため、私なら――と押しつけられていたことが異常だったと、今さらながら気付く。


「君は畑を作りたいと言っていたので、望むなら好きなだけ作ってくれて構わない。……私は植物を育てるのに向いてなくてね。ああ、それとジャーガイモゥとサァツマイーモゥという野菜に似た物は調査済みだ。それと屋敷の別館は全て本だ。好きに閲覧して構わないのだが……この条件なら、俺――私のプロポーズを受けてくれるだろうか?」

「はい。私、アルバート様と結婚します!」

「分かっている、そうすぐに結論は――――は?」


 私の即決にアルバート様は顔を真っ赤にして視線を逸らした。照れると視線を逸らす癖はノワールと同じだ。それが何だが微笑ましくて笑ってしまった。


「――ッ、そ、即答するのは嬉しいが、後で後悔しないか?」

「しません。私の希望を叶えてくれて、自由までくれるのですから! それよりも私のほうが得をしているような気がするのですが、アルバート様にメリットはあるのですか?」

「もちろんだ。メリットしかない。サティと暮らしたいとずっと思っていた!」

「え!?」


 初対面でここまで好意を寄せてくれているのは、恐らくノワールから色々私の人となりを聞いているからなのだろう。


「こほん。アルバート様、我が領地のことも、最初に話しておくべきでは?」

「あ、ああ……、そうだな。まず我が領地だけでなく、妖精の国は幽世(アストラル)と人間世界の均衡が揺らいだせいで、大きく影響が出ている。それを改善するため上位妖精――各王の称号を持つ妖精たちは、それぞれに伴侶を得るため活動を開始した。中には特定の国の人間に花嫁候補者を提供しているらしい」

(それ、多分というか、確実に我が祖国サフィール王国です!)


 ふと妖精の結婚理由について、耳にしたことを思い出す。あれは妖精都市でドワーフたちが話していた――。


『にしても、妖精王たちの婚姻問題は大変だな』

『それはしょうがないだろう。領主となる妖精王たちは伴侶を得ることで、領土や王自身の魔力を安定化させるんだから』


 貴族が一族繁栄のために政略結婚するように、上位の妖精にも結婚に関しては色々と縛りがあるのだろう。それでも結婚して一緒に過ごすのなら、仲良くしたいし、好きな人――あるいは好意的な人物が良い。それらを鑑みてもアルバート様は私の願いを叶えてくれる度量を持っているし、ノワールの主人という点でも、信用できる。


「アルバート様の事情は分かりました。私としては最高の環境に、アルバート様と夫婦になるのも大歓迎です!」


 遠回りしたがサツマイモとジャガイモを口にする機会がググッと近づいたことに浮かれていて、自分の発言など深く考えていなかった。


「だい……歓迎」

「よかったですね! アルバート様!」

「ああ……」

(執事の人なんて泣いている。しかも男泣き!)


 冬の妖精は人気がなかったのか、結婚にこぎ着けるまで苦労したのだろう。部屋を見たけれど、貴族令嬢が好みそうなドレスや宝石などは見かけなかった。屋敷も質素というかシンプルで私としては落ち着くが、豪華絢爛な内装や調度品のある生粋の貴族令嬢なら貧乏と一蹴しそうな気がする。


「それではサティ。ミデルの奴が取り返しに来る前に、私の花嫁として契約を済ませてしまおう」


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