第13話 冬の妖精王、アルバートの視点3
幸福の鐘が鳴り響く。
サティが俺の花嫁になる。
その経緯は朧気だが、サティを我が領地に迎え入れたのは嬉しい。
あっという間に結婚式がやってきた。
(しかしドレスを二人で選んだことや、式場の連絡をした記憶が無い?)
違和感に眉を顰めつつも、予約した教会に訪れた瞬間、それはどうでも良くなった。
花びらが舞い散る中での結婚式。白いベールで顔を隠しているが、白亜のドレスはサティが好きそうなデザインだ。
(あれ? サティはドレスや宝石にはあまり興味が無かった……のに? どうして?)
真っ白な教会で、周囲には様々な人たちが祝福してくれているのが見えた。だが、サティや俺の知り合いでもない。オベロンとティターニア、見覚えのある妖精王たちの姿がある。
俺もサティもさほど知人はいないし、どちらかというと盛大な結婚式よりは身内だけでやりたいと思っていたが違ったのだろうか。
「――様」
「サティ」
彼女を花嫁に迎え入れることができて嬉しいのに、何故か胸がざわついて仕方が無い。
幸福であるのに、何かが違うと。
『モフモフ』
そういつだって彼女は私を抱きしめてくれた。今度は俺がサティを守る。
守る?
誰から――?
(今回の結婚式はみなが祝福してくれた……)
幸せの絶頂。
それなのに何かが違うと、頭の中の警鐘が鳴り響く。
ふと教会の入り口に黒い獣が姿を見せた。
(あれは……)
自分の本当の姿でもある石榴色で六つの瞳、漆黒の毛並み、尾は五つある狼や犬の近い獣。六対の十二枚の羽根は間違いない。
「…………」
その自分の姿が教会のサティに見向きをせずに、教会の外に視線を向ける。
教会の外は目映い光に包まれ――その先には馬車の中で眠りこけているサティの姿があった。両手を縛られている姿を見た瞬間、考えるよりも先に体が動いていた。
「サティ!!」
馬車の中で眠るサティを抱き上げようとするが、体が透けてしまう。頬に触れようとするがその温もりを感じることはできない。
それでも、サティはほんの少し口元を綻ばせた。
『もふもふ』
「……サティ。遅くなってすまない。すぐに君を迎えに行く」
パキン。
背にあった紋様が硝子を砕いたような音が響いた。
その瞬間、結婚式会場がひび割れて、花嫁姿もろとも灰となって消え去った。
(――っ、そうだ、俺は!!)
「アルバート様! お目覚めになったのですね!」
「……あ、ああ」
意識が朦朧とした中で、何とか自分の領土に戻ってきたことを思い出す。
(そうだ。俺はあの時、背後を取られて――)
あの男が何者だとかそんなのはどうでもいい。ミデル王がサティを大切にして幸せにしてくれるのなら――そう思って、身を引いたのが間違いだったのだ。
すぐに人間界に向かって、サティを連れて帰る。
それは俺の中で決定事項だった。