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第11話 一方的な愛情の押しつけ

「何か困っていることが他にあるのなら、私を頼ってほしい」


 そう甘い声で囁く。

 私の意見など誰にも受けいれないくせに。なぜなら──。


「エーティン。君はいつも一人で抱え込んでしまうから」

「あら。サティに限って困っている事なんてないわよ。ねぇ、そうでしょう?」


 ここぞとばかりにトリア姉さんが現れる。私を隔離した屋敷に彼女も付いて来たのだから、本当に辛い。婚約者としてミデル公爵と毎日一緒に食事をするのだが、必ずトリア姉様も同席する。

 ミデル公爵もトリア姉様の言動にウンザリしている様子だった。その証拠に怪訝そうな顔をしているし、眉を吊り上がる。


「クワールツ嬢、いくら家族とはいえ令嬢として礼節に欠ける行動ではないのかな?」


 底冷えするような声色に、ゾッと背筋が凍った。ここまで嫌悪感を向けられてなお、トリア姉さんの頬は赤く染まり、照れている。

 彼女の中では、どんな都合がいい解釈が展開されているのだろうか。


(なんかこの二人、どっちも一方的……ある意味お似合いなんじゃ?)

「ミデル様、申し訳ございません。()()()()()()()()()()()()()、ご不興を買うのはもっともなことです」

(私じゃないから! この状況下で言われているの、貴女だからって言いたい!)


 すさまじい曲解による返答。自分が何をしているのか本当に分かっていないようだ。これにはミデル公爵も目を見開き、唖然としていた。


(勘違いさせるような言動をしていたので、ある意味自業自得なのだけど……。そんなに嫌ならどうしても側室なんて言ったのか謎だわ)


 私がそんなことを思っている間に、家事妖精(ブラウニー)に椅子を運ばせ、ちゃっかり座ってしまう。心臓が強すぎる。

 毎回こんな感じでお食事会は邪魔されるし、ミデル公爵と二人だけで話す時間は殆どない。もっとも彼に助けを求めても(サティ)の話は聞いてないし、状況は好転せず悪化するばかりだった。


(頼れって言ったのは、貴方なのですが!)


 それでもどこか改善できる、あるいはミデル公爵と二人で話し合う機会があれば──そんなわずかな希望に縋って日々を耐えていた。


 けれどそれも限界が来る。

 たまに行われるお茶会。

 これはミデル公爵の計らいだったが、取り仕切るホストはトリア姉様だ。姉様は我が物顔で家事妖精(ブラウニー)たちをこき使い、贅を尽くしてお茶会を開催する。招待するのは、姉様と懇意にしている令嬢、あるいは取り巻きたちだ。


「まあ、それじゃあトリア様の想いを知りながらも、サティ様は婚約なさったの?」

「酷い妹君ではなくて?」

「そんなことはないのだけれど、でもこの子は外に世界なんて知らないでしょう?」

「教養がないと、今後何かと公爵様のお手を煩わせるでしょうし、それは由々しきことですわ」

(また始まった……。人のことを貶すほうが教養ないんじゃ)

「我が国に品格が疑われるなんてよくありませんわ」

「その通りですわ」

「身の程を知って、正妻の座を辞退すべきなんじゃありませんこと?」


 何時間も同じ話題で、陰湿的な嫌がらせだった。あまりにもしつこかったので、「できるなら私だって婚約破棄したいわ」とうっかり呟いてしまった。


 それを口にした瞬間、家事妖精(ブラウニー)たちの鋭い視線がトリア姉様を含めた令嬢たちに向けられた。

 彼らは家事妖精(ブラウニー)で人の姿そっくりだが、主人の忠誠を誓った妖精であり側室であるトリア姉様と私に対しては親切に接してくれていた。だが私の一言は、その主人に不利益を齎すことだと気づき、一瞬にしてお茶会は中止となった。


「奥様が気分を害するのであれば、速やかに主人に報告させていただきます」

(えっ……)

「はあああ!? なんですって!?」


 声を荒らげたのはトリア姉様だった。

 側室という立場を使って家事妖精(ブラウニー)を好き勝手してきた。そんな彼らの反感を買ったトリア姉様は激昂するが、家事妖精(ブラウニー)たちはお茶会の片付けに入り出した。


(今まで見て見ぬフリをしていたのに、どうして!?)


 今までと態度の違い。

 彼らは私が困っている──とかではなく、ミデル公爵にとって不都合になるかどうかなのだ。けれどそれは私のことを慮ったわけではない。それが思っていたよりもショックだった。


 テキパキと片付けを進める公爵の使用人に、反感を買ったのだと気づいた貴族令嬢たちの反応はそれぞれだ。


「どういう事ですか、トリア嬢!」

「さ、サティ様は公爵様に愛されているのですね! 私はそれを確かめるために、あえて手厳しい言葉を投げかけたのです! わかってくださいますよね?」

「わ、わ、私も同じですわ! これは友人として、サティ様ことを思ってですのよ!」


 激昂する令嬢から青ざめて震える者、弁解して私に言い訳をする者とさまざまだった。

 それでも全員が早々に屋敷から追い出され、私は家事妖精(ブラウニー)に連れられて、奥の部屋に案内された。

 トリア姉様から守ろうとした行動、一瞬そう思ったがすぐに違和感に気づく。


(どうしてトリア姉様ではなく、私を隔離するような──)


 違和感に気づいた時から頭の中で、警鐘が鳴り響く。

 逃げなければ。

 ここは危険だと分かっているのに、どうしても体が動かなかった。


「こちらでお待ちくださいませ」


 分厚い扉が閉じた途端、ガチャンと外側から鍵がかかった。


「え?」


 ドンドン、と分厚い扉を叩いても、家事妖精(ブラウニー)が扉を開ける気配はない。「しばらくお待ちください」とだけ言い残し靴音が遠ざかる。

 機械的な返答。

 人権などないといった態度に、説明のない軟禁。いやもはや監禁である。


(少しの間だけ保護して貰っているだけ……よね?)


 そう思ったのだが、嫌な予感がした。そしてそれはまたもや的中する。


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