第1話 もし叶うのなら
しんしんと雪が降り積もる商店街。
緑と赤のクリスマス模様のイルミネーションが目に停まった。
バイクの運転は慣れていたし、よく通る道だったし、信号も青、オールグリーン。ただ少し前を走っていたトラックが、急ブレーキをかけた瞬間──目の前の乗用車がぶつかり、私もあわててブレーキを踏んだのだけれど遅かった。
バイクはぶつかり、意識が飛んだ。
体のあちこちが痛くて、呼吸も辛くて苦しかったけれど──倒れたバイクの傍に転がったのは数量限定焼きイモの袋だった。
知る人ぞ知る新島で作られた稀少な白いサツマイモ。ほくほくとした味わいと口の中で溶ける甘みが最高なのだ。
今日のオヤツに買ったのに。
(うう……。せめて一口だけでも、食べたかった……な)
『──、──』
誰かが何か言っている。
熱くも寒くもない。
意識がぼんやりとして、意識が途切れるほんの僅かな刹那──ガソリンと土煙と焦げ臭いとは別に、甘い花の香りが鼻腔をくすぐった。
それと同時に意識が細切れになって、闇に呑まれる。
甘い花の香り。
何故だかとても懐かしいような、思い出せそうで思い出せない花の名前──。
『春が来ない……。このままでは……』
誰の声だろう。誰かが呼んでいる。
真っ暗な闇の中で、悲痛な声だけが聞こえた。
『花がなぜ……。何がいけないのだ?』
花が咲かないとなると、育て方が間違っていたのかもしれない。
それとも環境が悪かったとか。
ああ、そういえば最近はサツマイモやジャガイモの栽培も良い物ができたが、最初の頃は全然だった。
最後の最後まで私はサツマイモやジャガイモのことばり。食い意地が張っている訳ではないといいたい。たぶん。
(もし、私で手伝えることがあるのなら、花や土いじり……サツマイモ、ジャガイモ畑……に関わることがしたい)
『君は──なのか?』
何と言ったのだろう。
けれど次があるのならサツマイモやジャガイモ畑を作って、のんびり暮らしたい。
私が私であることを覚えているか分からないけれど、願うくらい罰は当たらないだろう。
そう思って私の意識は消えて――次に気付いた時には、土いじりとは全く無縁の世界。貴族令嬢候補として、ある施設で暮らしていた。
(思っていたのと全然違う!)