その頃の『獣王の双牙』 エル 2
俺がギルマスへ、変異種ミノタウロスが現れたことをつたえ、ロッドは俺たちを守るため自ら死んだと言っておき、レオンに関しては真実を伝える。
すると、ギルマスが訝しげに俺を見て、いや、睨んで、
「ふむ…。レオンはぼっこぼこにされたら一人で突っ走っていきそうだがロッドは…そんな勇気を出せるような人間じゃあない。……その話、本当かぁ…?」
と疑われる。俺はロッドの性格を恨んだ。が、もう居ないあいつに怒りをぶつけても意味がない。今は目の前のことをどうにかしなければいけない。
「ああ、本当だ。嘘はついていない。」
そう断言する。その時、
「ぎ、ギルマス!い、今門番から連絡が……!?って、あ!エルさん!貴方にも関係あることです!」
と受付嬢がギルマス室に転がり込んでくる。……それにしても俺にも関係ある事…?何だろうか。
「落ち着けシルエ君。何があった?」
「じ、実は…ロッドさんが帰ってきたんです!」
その報告を聞き俺は固まってしまう。
「……はぁ!?そ、そんな訳ないだろ!み、見間違いとかじゃないのか!?」
俺は驚き取り乱してしまう。いや、だってそんなはずない!あいつはあの変異種ミノタウロスの時に置いてきたんだぞ!?それにもしあいつから逃げられたとしてもだ!あいつは他の魔物と戦えるほどの力を持っていない!そうだ、そんな筈ないないんだ。見間違い、見間違いに決まっている!
そう思い込む。が、不安になる。そんな時、
「……分かった。今すぐ確認しに行こう。」
とギルマスが俺のことを睨みながら言う。俺はその威圧感に気圧される。その後一睨みしたギルマスは俺のことを置いてギルマス室を出ていく。
俺はギルマスが出て行ったあと恐怖で震えてる足で立ち上がりイリアの元へ行く。
イリアは俺のことを心配そうに見、
「エル、どうしたのその顔?もう、この世の終わりだ!!みたいな顔してるけど?」
と聞いてくる。
……この世の終わり?確かにそうかもな。冒険者にとって仲間をダンジョン内に捨て置き逃げるのは重罪だ。それを俺らはやっちまった…!もう冒険者人生、悪けりゃこの人生は終わりかもな…。
俺はそういう考えをしたままイリアに先程あったことを洗いざらい話す。すると、
「え!?ロッドが生きてたって!?マジ!?わ、私たち…ヤバくない?」
とイリアが顔を引き攣らせながら俺に聞いてくる。俺は言葉を発さず、ただ首をこくん、と縦に振ることしか出来なかった。
「ど、どうするの!?わ、私まだ終わりたくないよ!?」
「お、俺だってまだ終わりたくねえよ…。そ、そうだ!今すぐ二人でこの町から出ていこう!そして違う町でまた!」
「そ、そうね!い、今すぐ出ていこう!」
そう言って二人で見合って騒いでいると、後ろからすさまじい殺気が。俺とイリアはその殺気にビビりつつも、その殺気の方向へと顔を向ける。そこには……
「おい……。お前らまさかよぉ、こんな大罪犯して逃亡しようとか思ってたわけねえよな…?」
と怒りながら呟くギルマスが後ろにはビビっているロッドと…?ロッドの横には見慣れない美人が。何だあいつ?まさかあいつが助けたのか…?だとしたらよくもそんな余計な真似を…!
ギリィ…!
俺は歯軋りする。
「さて…ロッドが生きていたことだし…詳しく話を聞かせてもらおうか…?」
とギルマスが圧をかけて呟く。俺は終わりを感じた。クソッ!こんなところで!こんなところで…!
「こんなところで、終わってたまるかぁ!!お前さえ、お前さえ居なければぁ!!」
そう俺は叫び、ロッドへ向かって剣を構え走る。イリアも俺の狙いを分かってくれたらしく、
「神よ!戦うものに速度の祝福を!『速度強化』!神よ!戦うものに力の祝福を!『膂力強化』!」
俺の体はすごく軽くなり一瞬で目の前に現れ、
「死ね!『獣王の一撃』!!」
俺は剣を振り上げ、勢いのまま振り下ろす。とった!!
「『白刃取り』!!」
ロッドがそう叫ぶと同時に、俺が振り下ろした剣は途中で止まる。
「な、何でだ!何が起きた!?」
俺は何が起きたか分からないまま攻撃が終わる。そして、ロッドの隣に居た美人がいつの間にか後ろに。そして、
「貴様のことは絶対に許さん。だが、感謝しろ。峰打ちで留めて置いてやる。」
と声を聴いた瞬間、意識が途切れるのであった。そして次起きた時俺は……鎖で繋がれ牢の中でとらわれていた。そして次こそ本当の終わりを感じたのであった。