夕食
* * *
ふわふわとした足取りで部屋を出た。
扉の外ではラウラさんが待っていて元いた部屋に案内してくれた。
何もかもがふわふわしていて、うれしいとくすぐったいが合わさった様な気分になっていた。
褒められた記憶がない。
うらやましいと、すごいと言われたことはない。
初めて私は褒められた。
あなたの能力はすごいと得難いと、言ってもらえたことは衝撃的だった。
自分の努力の結果じゃないとしても、私にはそれしかないのでそれで充分に思えた。
部屋に戻るとラウラさんに聞いた。
「私はそんなに不健康に見えるのでしょうか?」
ラウラさんはぐっとうなる様に言葉を詰まらせた。
それから、「ユイ様のご年齢から考えるといささか発育不足かと存じます」と抑揚のない声で言われた。
「それをどうにかするにはどうしたらいいですか?」
「まずはよく休むこと、それからバランスよく食事をすること、それから適度に体を動かすことが一般的です」
肌艶に関しては、勿論お手入れいたしますのでご安心ください。
そう言われた。
寝ることはあまり好きではない。
寝て起きたときに今日も雨が降っていると確認するのが嫌だった。
明日こそは雨が降っていないと夢見て、それが崩れるのが嫌だった。
明日になることが嫌いだった。
だから、眠ることについていい印象が無い。
「お昼寝も気持ちがいいものですよ」
ラウラさんはそう言う。
「お天気の日は外で横になるのも気持ちいいので、今度魔法士の方に頼んでみましょうね」
そう言いながらラウラさんは昼食のための準備を進めている。
ラウラさんも私のことを聞き及んでいるのだろう。
お昼ご飯は具沢山のクラムチャウダーとサクサクのパンとそれから、色とりどりのローストした野菜だった。
「敷地内に野菜畑もあるんですよ」
今度お散歩に行ってみましょうね。と言われて頷く。
早く皆の思う元気に、なりたかった。
その日の夕食はディーデリヒ様と食べた。
貴族の食事にはマナーがあると聞いたことがあるので心配だったけれど、「気にしなくていい」と言われた。
テーブルに出された料理は一口大に切られていて、食べやすく調理されていて少しだけ安心した。
ディーデリヒ様はとても美しい所作で食事をしていた。
彼の家族はいるのだろうか。
私と二人で食べていて大丈夫なんだろか。
そんなことを考えた。
今まで家族と食事をとってこなかった私がこんなことを考えるのは、おかしいのかもしれない。
実際、今まで誰と誰が一緒に食事をするという事を考えたことも無かった。
研究所でも食事はいつも一人でしていた。
「ディーデリヒ様は私と食事をしていてよろしいのですか?」
私がそう聞くと、ディーデリヒ様は不思議そうな顔をした。
「普通の人は家族と食卓を囲むと聞きました」
私が勇気を出してそう聞くと「ああ」とディーデリヒ様は納得したみたいだった。
「父は数年前に亡くなっていて、母は今領地にいるよ。
俺には、弟が一人、妹が一人いるけど、二人とも今は学園に通っているので寮に住んでいるんだ」
だから今この家には俺一人って訳。
ディーデリヒ様はそう言って笑った。
「ユイが来てくれて一緒に食事をしてくれて嬉しいよ」
そう言われて、胸のあたりに光が灯った気分になった。
思わず照れて笑みを浮かべてしまう。
それを見たディーデリヒ様は少し驚いた顔をした後「ユイは笑っていた方がいい」と言った。
私はそれになんて答えたらいいか分からなかった。
「私もディーデリヒ様と食事ができてうれしいです」
照れてしまって声は震えて小さくなってしまったけれど、ディーデリヒ様にも伝わったみたいで美しい顔で微笑み返された。
それから「じゃあ、明日お茶も一緒にしようか?」と言った。
「あの……。お仕事とかは」
「丁度片付いたところだから大丈夫だよ」
そう言われた。それが本当かを確かめる方法はないけれど、私は「是非お願いします」と頷いた。
太陽を見せてくれたこの人ともう少しお話をしてみたかった。




