ぼろぼろの少女 ※ディーデリヒ視点
※ディーデリヒ視点
ユイが華奢を通り越して折れそうな体をぺこりとしてから執務室を出る。
彼女は多分自分の立場について、説明したことの半分も分かってはいないだろう。
「彼女の過去について調査を」
控えの間から執務室に戻ってきたフェリクスに言う。
「ずいぶんご執心なんですか?」
にんまりという形容がぴったりの笑顔を浮かべてフェリクスが聞く。
「まあ、でもどうせ碌な内容じゃないとは思いますよ」
あの彼女、俺が貴族だってわかってなかったですからね。
そうフェリクスは言う。
この国は貴族と平民に求められるものが違う。
司令官はすべて貴族だし、現場の指揮官の中でもトップはほぼ貴族だ。
フェリクスももちろんディーデリヒ配下の貴族で、周りの軍人は貴族として扱っているが、ユイがそれに気が付かなかったと伝えてきた。
「まあ、警戒されるよりはいいんですが」
フェリクスはそう言うと「調査はどこまで?」と聞いてきた。
「すべてだよ。君なら分かってるだろう?
彼女の異能がいかに得難いものなのか」
そして、何故そんな得難い異能が今まで我が勢力に伝わっていなかったのか。
半ば厄介払いの様な状況であの場に来た彼女だがあの後計測したデータを見れば彼女の異能が本物だと分かる。
戦場を変えると言っても過言ではない状況に、俺はいるのかも分からない神に感謝してしまいそうになる。
しかも、彼女の瞳がいい。
彼女の黒い瞳はこちらをしっかりと見つめていた。
身なりはぼろぼろなのに、それでもまだ意思のこもった目をしていた。
それに――
彼女の異能には心当たりがあった。
方向性は違うけれど似たような能力を持った人間を知っている。