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水魔法使いと雨

「それにしても君の力はすごいねえ」


 今もうちの魔法士が何人も水魔法を使っているのに、雨脚が弱まった程度だ。

 それがまるで良いことでうれしいことの様にディーデリヒ様は言う。



 私には何故そういう考えになるのか分からなかった。


「魔法っていうのは別に奇跡の力でも何でもないんだよ。

無から魔法が生み出せるわけじゃない。

水魔法を使うには水が必要なんだ」


 ディーデリヒ様は言う。


「重い水を担いで戦うのは難しい。

水魔法使いは少量の水をもって戦いに挑むんだよ」


 ディーデリヒ様の声は相変わらず優し気だ。

 けれど、その瞳が真剣なまなざしなことに気が付く。


「あの森みたいに樹木があれば、まだマシだよ。

木の水分を使って魔法がつかえるからね」

「木も何も無ければ……?」


 私は思わず聞いてしまった。


「魔法士自身の体内の水分を使って魔法を発動するしかない。

死んだ魔法士のほとんどは体が乾燥しすぎていてミイラみたいになるんだよ」


 遺体を遺族に返すときにいつも申し訳ないと思っていた。


 そう言うとディーデリヒ様は一度口を閉じた。


 私はもう一度外を見た。

 外には雨が降っていた。


 止む気配のない雨がずっとずっと降っていた。


「雨が降っていればいつでも魔法が使えるんですか?」

「勿論魔法を使うには魔力が必要だけれど、それさえあれば」


 ディーデリヒ様はそう答えた。


「ユイ、君の力は奇跡だよ。

力の制御についてはまだ研究を進めなくてはいけないけれど、水魔法の使い手にとってはあなたの能力はこれ以上ない支援になる」


 ただ、制御が可能になるまでは、一定期間での引っ越しは必要かもしれないけどね。


 初めて、自分の力が、私が、必要とされているかもしれないと思った。


 ずっとずっと呪いだと言われていたものが、うんざりするくらい毎日毎日ずっと降り続く雨音が。それを必要だという人がいるのか。


 ぽろりぽろりと涙があふれた。

 昨日から、涙の栓がどこかに行ってしまったみたいに涙があふれる。


「だけど、まずは体をきちんとすること」


 ディーデリヒ様はそう言った。

 なんでも昨日の私はまるで死にかけの魔法士みたいに見えたそうだ。


「今までのあなたの扱いは何となく察することが出来る。

だからこそ、まずはゆっくりと休養を取って体力をつけて欲しい」


 それまではまずここディーデリヒ様のお屋敷に滞在する。

 小間使いを付けたから何かあれば彼女に伝える様にと言われた。


 特別なお客様という言葉がよみがえる。

 魔法士に役立つから特別というという意味だったんだなと気が付く。


 私に求められていることは、早く元気になって魔法士の役に立つこと。

 

 だけど私はそんなに体調が悪そうに見えるのだろうか。

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