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今日もいい雨ですね

* * *


 目を覚ますとすぐに、寝ているベッドがふかふかなことに気が付く。

 清潔なだけじゃなく、ベッドはいい匂いがした。


 それはラベンダーの匂いだと気が付いたところで目が覚めた。

 ラベンダーと不思議な臭いが合わさった匂いがする。


 かび臭いいつものベッドとはまるで違う。


 私が起きると、物音がしたのだろうかメイドさんが一人静かに部屋に入ってきた。


 ここがどこなのかよくわからない。


 メイドさんは私にペコリと頭を下げると「許可を得ず入室して申し訳ありません」と言った。

 私はきょろきょろと部屋を見回した。

 私以外誰もいない。

 私にこの人は謝ったということなの? よくわからず思わずメイドさんを見返す。


「旦那様よりユイ様のお世話を申し付かりましたラウラと申します」


 朝食の前に湯あみはいかがでしょうか?

 そう聞かれて驚く。


 誰かと勘違いしてるのではと思ってしまった。


「旦那様の特別なお客様ですから、特別なおもてなしをと申し付かっております」


 何も答えることのできない私にラウラさんはそう言った。

 話す前に少し悩んだ仕草をしていたので、きっと私に言ってはいけないことだったのかもしれない。


 私に特別なことなんてない。

 思わず視線をそらすために窓の外を見る。


 今日もしとしとと雨が降っていた。


 この呪いが“特別”という事だろうか。


 彼女は何も知らされていないだろうと思った。

 なら彼女に聞くのは迷惑かもしれない。


 それに私は別に特別じゃないですと言い返しても迷惑になる。


 この人の仕事は私をもてなすこと。それができないときっとこの人は仕事が果たせなくて困ってしまうのだろう。


「お勧めされた湯あみしてみたいです」


 私がそう言うとラウラさんは「かしこまりました」と答えてくれた。


 浴室に案内される。

 そこにはあたたかなお湯で満たされた広い湯ぶねがあった。


「湯につかって温まりました頃またまいります」


 ラウラさんはそう言うと浴室を出て行った。

 体を軽く流してから湯ぶねにつかる。


 こんな広いお風呂に入るのは初めてだ。

 湯が贅沢に使われている。


 さすが貴族のお屋敷だと思った。



 それから私は髪の毛を洗うのを手伝ってもらい。

 背中も流してもらった。


 顔を洗うための石鹸だと言って手渡されたものはバラのいい香りがして、それだけでうっとりとする。


 浴室から出るとふかふかのタオルで体を拭いてそれから手渡されたきれいなワンピースを着た。


 ワンピースは貴族のお嬢様が着るみたいなきれいな布で作られていて、かわいらしいレースが付いていた。

 レースの模様は多分雪の結晶の形だ。


 着心地もとてもいい。


 ラウラさんは私の姿を見ると「髪の毛を整えさせてください」と言った。

 髪の毛を整えてもらうと、朝食が部屋に用意されていた。


 この国の貴族は特別な間柄でないと朝食は共にしないと聞いたことがある。

 基本的に別々に食べるのが普通なのだろう。


 野菜をすりつぶしたポタージュも、ふわふわのパンも、それから半熟の卵。どれも優しい味でとても美味しい。

 食後に入れてもらった紅茶も渋みが薄くていい香りがした。


 私が大切にされているという事がよくわかった。

 それとも貴族の人たちの間ではこれが普通なの? 貴族の知り合いがいないからよくわからない。


 お昼になる少し前にディーデリヒ様に呼ばれた。

 そこは商会の事務所の様に、壁には本棚があり、大きな机が置いてある部屋だった。


 部屋入口近くにあるソファーセットに案内されてそこに座る。



「今日もいい雨だね」


 ディーデリヒ様がそう言う。

 この部屋にある窓から外を見る、朝よりは少し雨脚が弱まっているものの雨は相変わらず降っている。


 それが嫌味かどうか測りかねる。


「ああ。水魔法使いの挨拶だよ」


 窓に視線を移した私に、ディーデリヒ様は言った。


「挨拶?」


 そう言えばあのテントで似たことを言っていた人がいた気がする。


「水魔法士は雨をありがたがる生き物だからね」


 雨を嫌う人間の方が多いことを私はよく知っている。

 数日の雨であれば喜ぶ人もいるけれどいつまでも降り続く雨は大概の人は苦手に思うだろう。


 けれど、他の貴族の挨拶を知っている訳ではない。



「今日もいい雨ですね」


 私は挨拶としてだけれど初めていい雨だなんて言葉を使った。

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