雪
その言葉は多分これから戦いをするという事実を私から覆い隠そうとしてくれた言い回しなのだと思った。
後詰めからは前線はよく見えない。
だから本当に彼が無事なのかも分からない。
私にできることはただ祈ることだけだ。
季節外れの雪が邪木の群れの上にだけ降るように。
しんしんと降り積もるように。
ヨイヤミさんは異能を発動させる際の集中の仕方にルールはないと言っていた。
だからこそ難しい。
感情が関係していることはわかっている。
実際私がディーデリヒ様に告白されたときは雪が降った。
あの時のことを思い出せばというのは練習中に試したけれどうまくはいかなかった。
色々な要素がきっと複雑に絡んでいるのだろう。
そして今の段階ではそれについてはきちんと研究もされていないので分からない。
なら私は私の形でただ、祈るだけだ。
あの人の元に奇跡が降り注ぐように。
あの人の討伐が、願いが必ずかなう様に。
私の大切な人たちを守るように。
あの人の大切な人たちも守れるように。
少ない可能性にかけることの愚かさはもう学んだけれど、今の私にできることはそれしかない。
それにきっと、雪が降らなくてもあの人なら何とかしてしまうのだろうという予感もあった。
だけど、だからこそ、彼のために雪を降らせたかった。
あの人が私に青空を見せてくれたみたいに。
果たして、願いが届いたのだろうか。
それとも、文字通りの神様の悪戯だろうか。
黒く深い色の雲が私たちのいる場所を覆った。
雨が強くなる時に時々なる耳鳴りの様なものがする。
ひらり。
ひらり、ひらり。
灰色の雲から降り注ぐ雨はやがてみぞれになり、そして、白いふわふわとした雪がまるで円を描くように落ちてきた。
どっと歓声が起きた。
それで私の周りの人たちも固唾を飲んで見守っていたことに気が付く。
私は一人じゃないのだと。
みんなが私を見守ってくれていたのだと気が付く。
「こちら羽織ってください」
外套をわたされて羽織る。
雪が降ると周りの空気まで冷たくなるのだろうか。
思わずそんな質問をすると「勿論雪の影響もあるとは思いますが、始まった証拠です」と、そうラウラ先生は言葉を返した。
それでこの寒さはディーデリヒ様の魔法によるものなのだとわかった。
目に見えないほど先にいるのに寒さを感じられる。
どれだけ彼の魔法が稀有なものなのかが分かる。
吐く息も少しずつ白くなっていくのが分かる。
けれど、それにおどろいている人は一人もいない。
皆ディーデリヒ様を信頼しているのだろう。




