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初めての青空

 彼が私を抱き寄せているのと反対側の手を天に掲げた。


 次の瞬間、一瞬雨音が消えた気がした。

 実際肩にかかる雨が瞬時に消えていた。


 周りの雨が消えたのだと思ったけれど、それは違う。

 消えたと思った雨は、目の前を埋め尽くす無数のつららの様な形をした氷になったのだと気が付いた。

 数はゆうに百を超え次々とそのつららが目の前にできていく。


 ディーデリヒ様の魔法なのだろうという事は言われなくても分かった。

 それに彼が優秀な魔法士だという事も。


 そのつららは勢いをつけて地上に向かって落ちていく。


「あの刃の先に魔獣がいるんだよ」


 目の前を埋め尽くす様なつららは氷の刃らしい。

 数秒の後、あちらこちらから悲鳴が聞こえる。


「水魔法は大気中の水分を使うか、それで駄目なら術者の体内の水分を使うんだ」


 だから今日は調子がいい。

 彼は見上げた曇天を見て笑った。


 それからもう一度、先ほどと同じように手をあげた。

 今度は雲が彼に従うかの様に形を変え次々と氷の刃の形になる。


 それよりも私は雲の無くなった空を見て、目を見開いてしまった。

 雲はどんどん流れるように氷の刃になって魔獣に降り注ぐ。

 地上は今きっと大変なことになっているのだろう。


 だけど、私は、ただただ空を見上げていた。


 雲がどんどんとなくなってただぬけるような青空になった空を食い入る様に見つめていた。


 青空はディーデリヒ様の瞳に似た色をしていた。


 初めてみる晴れの空は青く青く澄み渡っていた。

 雨を吸ったワンピースは湿っていて重く、冷たいけれどそんなことは気にならなかった。


 初めて色というものを認識したような衝撃が私の体の中を駆け巡った。

 太陽が森を照らしている。


 ディーデリヒ様の銀色の髪が雨に濡れている。

 それが太陽の光でキラキラと輝いている。


 それはとてもとても美しくて、ずっとずっと見ていたいと思った。


「さて、これで次に雨雲があつまる速さであなたの力の強さが分かると思いますよ」


 初めての晴れに夢中になっていた私はそう言われた。

 私の呪いが雨雲を集めてしまうものであればまず雲が集まってそれから雨が降り出すだろう。


 そうでない場合、いきなりここで雨が降り始めるのだろうか。

 どちらにせよずっとずっと雨が降らなければいいと思った。


 ずっとずっとディーデリヒ様の瞳の様な色の青空を見ていたいと願った。



 ディーデリヒ様は森を見下ろすと、何かを確認するように視線を動かして、それから最初に私たちがいたテントの付近に着地した。


「閣下!!」


 あの責任者らしき人がすっ飛んできて叫んだ。


「大丈夫だ。

討伐対象の魔獣はすべて処理できたはずだ」


 責任者の人が息を飲んだ。


「やはり雨降りの日は調子がでる」


 そう言ってディーデリヒ様は私に向かって微笑んだ。


 その日は夜半過ぎになってまた雨が降ってきた。


 私は雨が嫌いだ。

 あの日差しに輝く青空を見てもっと雨が苦手だと思ってしまった。


 この場所の責任者だと思った人はディーデリヒ様の配下の、フェリクスという人だそうだ。

 あの氷の刃であらかたの魔獣は倒してしまったけれど、死体の片づけと調査があるらしいのでしばらくはここで寝泊まりするらしい。


 ここにいるうちはフェリクスさんが私の面倒を見てくれるとディーデリヒ様は言っていた。

 彼に案内されたのは寝泊まり用の大きなテントだった。

 中は柱があり、本物の部屋の様に広く天井も高い。


「同室者の方は?」

「こちらはユイ様がおひとりでお使いください」


 フェリクスさんはそう言った。

 こんな広い場所を私一人で本当に使っていいのだろうか。


「私は単なる実験対象ですよね?」

 研究所へ連れてこられたときに言われた内容はきっと今も変わらないのだろう。

 そう思って私が聞くとフェリクスさんはヒュッ、と息を飲んだ。

 それから少し逡巡したのちフェリクスさんは「私にはなんとも」と答えた。


「まずユイさんは、年相応に食べて寝て、年相応の体にしましょう」


 私は自分の体を見た。そんなに貧相なのだろうか。


「勿論体形は人それぞれですが、ユイさんは一般的な感覚ですと十歳以下に見えますよ」


 言葉を濁しながらフェリクスさんは言った。


「あなたの能力の解析をするにしても、まずはきちんと体力をつけましょう」


 そう言ってフェリクスさんは着替えの服の場所を教えてくれた。

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