変化
その悪しきものは静かに数を増やしていた。
少しずつ、少しずつ範囲を広げていた。
けれど一つ一つは簡単に燃やせてしまうためほとんどの人間がその脅威に気が付かなかった。
簡単に燃やせるというのはその生き物にとっての生存戦略だという事に。
* * *
ディーデリヒ様の告白に私はきちんと答えることが出来たのか私にもよくわからなかった。
いきなり伴侶と言われても、何もイメージが出来なかったのだ。
世の中、平民も貴族も夫婦が沢山いるのは知っている。
けれど、そういう人たちは私と関係のない人なのだと思っていた。
仲の良い夫婦がどういうものなのかが分からないのだ。
それに、異能の力を重視するとディーデリヒ様は言っていたけれど、実際貴族が血統主義なことはちゃんと勉強していた。
彼の立場が悪くなってしまうのは避けたい。
言い訳ばかりになってしまった。
本当は――
本当は嬉しかったのだ。
私を必要だと言ってくれて、伴侶にと言ってくれて。
だけど上手くその言葉に私はあなたが好きなのだと言えなかった。
その状況が信じられなかったのも少しだけある。
ディーデリヒ様が私を選ぶ理由が今も実際の部分よくわからないのだ。
教養も無く、やせぎすで、平民。
異能の力はあるけれど、今も完全な制御はできない。
その所為で同じ場所にとどまり続けることが難しい。
そんな人間を伴侶にと選ぶ理由があるようには思えない。
そんな私の気持ちとは関係なく、ラウラ先生は私の滞在する部屋に入ると「さあ、今日も奥方教育の続きをしますよ!!」と高らかに宣言した。
「奥方?」
「ついに、主様がユイ様にプロポーズなさったとお聞きしました! これは教育の意図を隠さなくてもよいという事ですわ!」
そう言われて私は驚いてしまった。
ラウラ先生曰く、最初から私の教育はディーデリヒ様の伴侶としてのものでラウラ先生が私の世話をしてくれるようになったのもそういう意図があったらしい。
最初からだったのだろうかと驚くと「主様本人は無自覚でしたけど、あからさまにユイ様のことを気に入ってらっしゃったので」とラウラ先生は言った。
「配下の者はほとんど気が付いていたんじゃないかしら」
そう言われてとても気恥ずかしくなってしまった。
「あらあら……。
初々しくてよろしいですわね」
ラウラ先生はそう言って笑った。




