私の望み
雨は降り続いていた。
静かに、静かに降り続いていた。
今までずっとどう生きればいいのかなんて考えたことが無かった。
多分、考える余裕が無かった。
「いい雨だね」
私の部屋の窓が静かにあいた。
窓の鍵は閉められていたのではなかったか。
そこにいたのはディーデリヒ様だった。
私は彼のその言葉を聞いただけでなんだか涙が浮かびそうなった。
理由は少しだけちゃんとわかっている。
ラウラ先生は室内にもういなかった。
「……いい、雨ですね」
言葉が詰まった。
今の私の気持ちがこもっているみたいな言い方になってしまった。
ディーデリヒ様は室内に置いてある椅子に座ってこちらを見た。
寝巻に着替えてなくてよかった。
さすがにその恰好を見られたくはなかった。
「雨は嫌い?」
ディーデリヒ様は多分、今までで一番やさしい声でその質問をした。
私はこの人と最初に出会ったときのことを思い出した。
私は雨の無い場所に行きたいのだろうか。
雨に関わりなく生きたいのだろうか。
「雨が嫌いでもいいんだよ」
ディーデリヒ様は何も答えない私にそう言った。
誰よりも雨を必要としているとわかっている人が私に向かって、それが当たり前のことの様にそう言って笑顔を浮かべた。
「昔は、雨は嫌いでした」
「うん」
「大嫌いでした……」
私が言える立場じゃなかった。
いつも雨で迷惑をかけて、呪われてると言われて、しけったパンを食べるしかない私がそれを言ってはいけないと思っていた。
私が雨について言及してもいけないんじゃないかとすら思っていた。
「いつか青空が見たいと思っていて」
「うん」
「それをあなたが見せてくれた」
ぬけるような青空を。
「だから、雨が大嫌いって訳じゃなくなりました」
ディーデリヒ様の笑顔がいつもより優し気に見えるのは気のせいだろうか。
私は外を見る。
「いい雨ですね」
いい雨だ。
そう思えた。
最近はちゃんとそう思えるようになった。
少しだけ雨が好きになった。
雨が役に立てるのだと思った。
だから、これからも役に立ちたい。
「私はずっと毎日『今日はいい雨ですね』と言っていたい。
でも、そう思えたあなた達の力になれる方法を選びたい」
ディーデリヒ様は少し驚いた顔をした。
「毎日『今日はいい雨ですね』と言いたいってなんだかプロポーズみたいだね」
今度は私が驚いた顔をしてしまった。
そんなつもりで言った言葉では勿論ない。
ただ、本当にそう思った言葉を口にしただけだ。




