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雨降りの巫女と氷結の魔法士  作者: 渡辺 佐倉


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ヨイヤミの授業

 その言葉に私は頭が真っ白になってしまった。

 一言で言うとショックだった。


 何もしなくても許される人間だろう? という嫌味が含められていることにはすぐに気が付いた。


 そんなんじゃない! と言い返したいのに、上手く声が出ない。

 じゃあ、お前は何ができると言われたときに私は果たして何ができるのだろうか。


 私はぎゅっと唇を噛む。


 だって、私にはやっぱり何もないと思ったから。

 私にもできることがあるかもしれないと思ったけれど、それはただそこにいるだけなのかもしれないと思ったから。


「あらら、ちょっと意地悪しすぎたかな」


 そうヨイヤミさんは言った。

 思わず彼の顔に視線を移すと、彼は困ったように笑っていた。


「お嬢さんは、お姫様になる気は無いのかい?」

「お姫様?」


 私は平民だ。

 お姫様にはなれない。


「このまま、お嬢さんはこいつの指示に従っていればお姫様扱いしてもらえるじゃんか」


 そうなのだろうか。私はディーデリヒ様を見上げた。


「お屋敷での生活はお姫様のようでした」


 私がそう言うと「あれでお姫様なら世のお姫様は神様みたいな暮らしをしているよ」と言ってディーデリヒ様は笑った。


「だけど、私は役に立てる人間になりたい」


 そう、私がなりたいのは役に立てる人間だ。お姫様ではない。


 私は私に青空を見せてくれた人の役に立ちたいと思った。

 あの青空に報いたいと強く思った。


「私は人の役に立ちたいので、この力の使い方を教えてください」


 本当に力なのかさえも実際よくわからないけれど、自分にできることが欲しかった。

 ただそこにいればいいという以上の自分にしかできないこと。

 それができるならどんな努力でもしようと思った。



「そのために俺が呼ばれたんだろ?」


 ヨイヤミさんはそう言った。


「あまり強い力を使う許可は出ていないがな」


 ディーデリヒ様はヨイヤミさんに向かって言った。


「別にお嬢さんを不運に巻き込んだりしないさ」


 ヨイヤミさんは言った。


 ヨイヤミさんは私にこの呪い、“神々の悪戯”の使い方を教えてくれることになった。

 ディーデリヒ様たちは引き続き討伐を続けるらしい。


 ヨイヤミさんは、どこかのお屋敷に逗留が難しいらしいので、幕舎で講義は行われることになった。

 魔獣の討伐自体に私は何の役にも立たないので、ここで力の使い方についてとラウラさんに宿題として渡された勉強を毎日することになった。


「今のままでも充分ユイは役に立っているから、気負わないようにね」


 ディーデリヒ様はそう言った。

 彼はいつもそうやって優しい言葉をかけてくれる。


 けれど、だからこそ彼の役に立てるために頑張りたいと思った。


 力の練習はまずこの力の正体を感じ取れるところからだった。


 二人きりの部屋、と言ってもここは魔獣討伐のための基地なので危険が無いとも言えないという理由で護衛の人は一人室内にいる。その部屋でまずは魔法とは違う別の奇跡の力があるのだと感じられるための練習をしていた。


 もう一つは感情をコントロールする訓練をはじめた。

 この呪いは悲しかったりネガティブな気持ちが強まると事象の力も増すらしい。

 なんでも神様が心配してより多く力を貸しているのではないかという事だ。


 正直その話を聞いた時、なんてありがた迷惑なのだろうと思った。

 神様というものがいるとして、まともに気持ちを通わせることはきっと無理に違いない。


「穏やかな気持ちを無理にでも作ると、能力は抑制されるよ」


 薄い笑顔を浮かべてヨイヤミさんは言った。

 この人もそうやって能力を抑えているのだろうか。


「嬉しいときや悲しいときも我慢しているんですか?」


 私がヨイヤミさんに聞くと彼はにっこりとほほ笑んだ。


「全部を全部気持ちを制御するのは人間には無理だよ」


 だけど能力を抑え込む練習にはなる。

 ヨイヤミさんはそう言った。


 それは辛いときに辛い気持ちを見ないふりをして忘れることときっと同じだろうと思った。

 それなら私には得意なことだ。


 私が一人で納得しているとヨイヤミさんは変な顔をしていた。

 けれどすぐ元通りの顔に戻って、「じゃあ神気を見る訓練をしようか」と言った。


 まず私がその神の気を感じやすいようにヨイヤミさんが私に神気を流し込んでくれるそうだ。

 その感覚に驚いて倒れてしまわないように私は椅子に座ってヨイヤミさんに手を差し出した。


 ヨイヤミさんに握り返された手をじっと見る。

 彼の手は酷く冷たく感じた。


 前に私の手を握ってくれたディーデリヒ様の手が温かかったからだろうか余計にそう感じる。


 その冷たさの中にチリチリとする感覚があった。

 まるで冷たい雪を触った後に温まった時に感じる様なチリチリとした感覚が指先にする。


「そう、それが神気だよ」


 ヨイヤミさんは言った。

 その感覚に集中する。


 まず神気があると知っていること、そしてそれを感じること、その二つが神気を見るために絶対に必要な二つの要素だそうだ。


 私はチリチリとした感覚が広がっていくそこに目を凝らすと、夜霧の様なふわふわとしたものが見えた。

 私は驚いて思わず目を見開いた。


 夜霧は私の手の周りとそれからヨイヤミさんの体の周りを漂っているのが見える。


 ヨイヤミさんがテーブルにあったホーロー製のカップを手に取った。

 それを私に手渡す。


 受け取ると取っ手にまとわりついていた夜霧がふわりと膨らんだ気がした。

 その瞬間、まるでつるりとすべるようにカップが床に落ちた。


 幸いカップの中には何も入ってなかったしカップも割れていない。

 ほっとすると、ヨイヤミさんが声を出して笑う。


「わざとですか?」

「そうだね。ある程度は。

だから中身の無いカップを手渡した。

俺の能力はこういうちょっとした不運を招く」


 ヨイヤミさんは私から手を放してカップを拾ってテーブルに置きなおした。

 それから私を見て言った。


「それじゃあ今度は自分の体を見て」

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