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雨降りの巫女と氷結の魔法士  作者: 渡辺 佐倉


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ヨイヤミの異能

「例えば、ちょっと運が悪くてコーヒーをこぼしちゃうみたいなそんな不運が降りかかる。俺の異能はそう言うやつだ」


 だけど、とヨイヤミさんは言う。

 そういうちょっと運がないなっていう状況が戦場だとどうなるかわかるかい?

 少しの運の無さが命に作用してしまう場所が戦場だ。

 わずかに塹壕から頭が出ていたという運の無さ。

 普段は気を付けていれば滑らないはずのぬかるみで足を滑らせる。

 極寒の地で飲み水を体にこぼせば凍傷になりかねない。




「分かるかい? 俺は戦場を無茶苦茶にすることができる」


 ヨイヤミさんはそう言ってニヤリと笑う。


 それが彼の呪いなのだろうか。

 彼の周りが少しだけ不運に見舞われる呪い。


 私の雨が降るに比べてさらに確認しにくい上に偶然で片づけられてしまいそうに思える。

 けれどディーデリヒ様がここにわざわざ彼を呼んだという事はきっと彼の力は本物なのだろう。

 それであれば、まさに呪いと呼ぶのがふさわしい力に思えた。


「ただ、上手く使いこなせないと自分たちにも不運がおきてしまう。

だから、敵にいて欲しくないけれど、自分のところにもいらないんだよなあ」


 なあ、とヨイヤミさんはディーデリヒ様に声をかけた。

 誰もが不運に巻き込まれたくないと思うだろう。


 近くにいて欲しくないと誰もが願う力だ。


「だから今のところ俺は二重スパイってやつをやってる」


 自分たちの管理下に置いてかつなるべく遠くにいて欲しい存在。その思惑によって、彼は二重スパイをしているのだろう。



 ただ、それはとても悲しい生き方に思えてならなかった。


 悲しい生き方をしている人が私なんかになんの用があって呼ばれたのだろう。


 不運に屋敷の人を巻き込まないために、もしくは彼を屋敷に呼んでいると他の人に知られると他意が無くても怪しまれるためこの場での顔合わせになったのだろう。



「俺の力は試すと碌なことにならないけど、おそらく君と“同族”なことは確かだよお嬢さん」



 ヨイヤミさんはそう言った。

 私は挨拶をするために右手を差し出した。

 けれど、握手をする、みたいな縁を結ぶ行為は厳禁だから。と言ってヨイヤミさんは断った。


 

「君に会いに来たのは、俺と同質の力を君が持っているかの確認と、同じであれば力の扱いを教えるためだよ」


 ディーデリヒには借りがあってねえ。とヨイヤミさんは言った。


「やはり、同質の力か?」


 ディーデリヒ様がヨイヤミさんに聞く。


「おそらくなあ。神気が少し残ってる」


 シンキという聞きなれない言葉に首をかしげる。

 

「俺たちの呪いは“神々の悪戯”と呼ばれるものだ」


 魔法という理論に基づいて行使される奇跡とは違う、神の気まぐれによってもたらされる奇跡。

 それが神々の悪戯と呼ばれるものらしい。


 奇跡ではなく悪戯と呼ばれる通り、そのほとんどが人間にとってあまり利益が無いものが多いらしい。


 奇跡なのか、悪戯なのかは置いておいて、自分以外にも似た境遇の人がいるという事実に心から安堵を覚えた。

 世界で一人ぼっちの呪われた人間だったのがようやく違うと言われて、心の奥にあったおもりが取れた気がした。


「神と接触した人間に残る残渣のことだよ」


 ヨイヤミさんはそう言った。


「まあ、本当に神なんて存在がいるのかは分からないけど」


 ただ、人間にこんなことはできないから、それよりも大いなる存在だという事だけは確かだよ。とヨイヤミさんは付け加えた。


「他の人に見えない何かが見えるんですか?」


 私がそう聞くとヨイヤミさんは「すぐにお嬢さんにも見えるようになるよ」と言った。

 ディーデリヒ様の依頼はそれも含まれるのだろう。


「何故、神々の悪戯について誰も知らなかったのですか?」


 私の様な平民が知らないのは仕方がない。

 けれど、今まで誰の口からもその言葉は出てこなかった。


 そんなものがあることをほとんど誰も知らないのだと、私は思った。

 私の元に検査に来た役人も、研究所の職員も誰もそんなものの話はしていなかったし、その可能性の確認もしていない。


「そりゃあ、この能力のほとんどが、碌でもないものばかりだからだろうな」


 失せものが発生する呪い。その人間の周りのものが突然消え失せる能力を持っているものが確認されている。

 もう一人、この国には『見た悪夢を現実のものにする』力を持つ貴族令嬢もいる。


 淡々とヨイヤミさんが言う。


「悪い未来を予測する能力ではなくてですか?」


 私がそう聞くとヨイヤミさんはディーデリヒ様に目配せをした後続きを話し始めた。


「途中で起こされた場合、そこまでしか現実にならないんだよ」


 貴族令嬢じゃなかったら、殺されてるだろうねえとヨイヤミさんは言った。

 今は侍女が付いてうなされていたら即起こす様にしてなるべく悪夢自体を見ないようにしてる筈だよ。


「とにかく基本的にそんな碌でもない使い道が限られている能力ばかりだからねえ。

偶然だって言う人間も多いし、無かったことにされてるんだよ」


 だけど。ヨイヤミさんはそこで言葉を区切った。


「どんな力だったとしても使いようだ」


 しっかりとした声が耳に響く。


「……と、そこにいるだけで感謝されるお嬢さんには関係のない話か」


 ヨイヤミさんはそう言った。

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