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序章 ーハジマリー

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 とうとう僕の名前が消えました。前の席に座る佐藤が出席簿の僕の名前部分をボールペンでグジャグジャとやっています。そして、その横にひどく乱雑な字で虫と書きこみました。どうやら、僕の新しい名前は虫ということで決定したらしいです。これからは虫として生きていかなければいけません。下駄箱やロッカーもすでにやられています。今日という日を持って奥田正平という人物は存在しなくなりました。この学校から。彼らの無邪気で純粋な心から。私は消え失せました。私は虫です。


 虫に対してのクラスメイトの態度ときたら酷いものです。休み時間に、ただ座って本を読んでいる無害な私に向かって「キモイ」という言葉をぶつけてきます。ひそひそと話すように。直接僕に投げかけることはないのです。もちろん直接投げかけてくる奴もいます。それは僕の心臓を握りつぶして笑っているも同然の行為です。しかし、僕にとってはこんな奴らどうでもいいのです。彼らはその汚れを知らない純粋さ故に無知で、自分が物語の主人公だと思っています。ちょっと辛いことや悲しいことがあると、悲劇のヒロインの如く自分に酔い「私はなんて悲しい星の元に生まれてきたのだろう。ひどい環境に生まれてきたのだろう」と他人や環境の所為にして自分を奮い立たせ。少しでも良いことがあると、「これはドラマの始まりだわ! きっと誰かが私を迎えに来て幸せにしてくれるのだわ!」と都合の良い妄想で勝手に幸せになるのです。特に、男なんていう生き物は本当に下衆で馬鹿な生き物ではないでしょうか。ただ、女にモテることでしかステイタスを得られない。その輝く地位を得るために、安くて変なにおいのする香水を降りかけ、女子の方をちらちらと見ながらクラスの中での自分の存在感を出すために大声で会話をしたりと、変な方向で自分をアピールし、身内でしか通じないギャグや笑い話を、さも自分がこの世で一番面白いんだぜ! という風に教室で披露している。もちろんそれは冷静な目で見れば、とても恥ずかしくて、俗に言う”イタイ行為”なのですが。私は、こんな彼らと比べられるならまだ虫でいた方が良いのです。例えそれが、どんなに孤独であろうと。学校生活において何も楽しみがないとしても。居場所がないとしても。私は彼らに傷つけられ本当の世界を知ってしまったのです。私はたった一つの、やらなければいけないことへの衝動に駆られていました。


 結局彼らは、己の無知さに気がついていないだけなのです。そんな彼らに僕は怒りや恨みを抱くことはできません。どうしたら、何も知らない無邪気な子どもがやったことに対して親が恨みや怒りを抱くことが出来ましょうか。それと同じなのです。僕は彼らを救ってやらねければいけません。ただ一人の聖者として。


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