第一話 危険な森とナイスガイ
とある高校生俺の鞄から唐突にスマートフォンからメール音が鳴り寝惚けた顔で内容を確認する。
「貴方は選ばれました?」
(あー、そういえば前に悪ふざけでアンケートに応えたっけか。)
そのメールには“友人も恋人もおらず毎日退屈な日々をお過ごしの貴方には“異世界ライフ”をおくり幸せになれる権利が与えられました。 〘異世界に行く〙をタップすると異世界ライフに必要なスキルを無償で何でも一つだけ選ぶ事が出来ます。”と書かれていた。
「なんだこれ? イタズラにしては面白い方かな、ラノベじゃ無いけど異世界に行けるなら行かせてもらおうじゃないか。 ポチッとな。」
俺はメールを誰かのイタズラと考え軽い気持ちで〘異世界に行く〙をタップすると全身が光に包まれ、気が付くと真っ白な空間に立っていた。
「な、なんだ!?」
何が起こったのか理解できず立ち尽くしていたが何処からかやけに高らかな声が聴こえてきた。
『おめでとうございまーす! 友達も彼女もいない貴方に朗報でーす♪ な〜んと今回に限りスキルを何でも一つだけお渡ししちゃいまーす!!』
「えーと、あんた誰?」
俺の眼前には背中から天使の様な翼を生やし頭には輪っかが浮かんだ女性が舞い降りて来た。
『察しが悪いなー君、女神アルステラよ? 知らないの?』
「悪いけど宗教には興味無いんだ。」
『あらそう、じゃあ欲しいスキルを決めてね♪』
「スキルか、何にするかな。 異世界だし魔法使いたいな、それから女の子にモテモテにもなりたいし英雄になってちやほやされたいな〜。」
チリリリリーン、チリリリリーン……
スキルを何にするか考えている最中、女神アルステラのガラケーから着信音が鳴り慌てて電話に出ると何やら焦った様子で話をしていた。
「はい、はい……わ、分かりました急ぎます!!」
「どうかしたのか?」
「ごめーん大天使様からの急用が入ったからスキルは今度ね! はい行ってらっしゃい!!」
「おい待て! 話が違っ…………」
女神アルステラは俺を指差すと眼前が再び光に包まれ気が付くと鬱蒼とした場所へと転移させられる。
「何処だよここ? スキルも無しにどうしろってんだよ!? そうだ、スキルが無くても異世界ならステータスが開ける筈だ! “ステータスオープン”!」
しかし何も表示されない事を知り周囲から聴こえて来る獣とは思えない様な鳴き声が辺り一面から響き渡り恐怖に身を強張らせる。
「な、何が異世界ライフだよ! 幸せになれる権利だよ!! こんな場所に飛ばしやがって、あの駄女神絶対生き延びて文句行ってやる!!」
湿った草を掻き分け進むと獣道を見つけ、近くに何か食べられる物がないか探索を始める。
「これは茸か、駄目だ……知識が無いから毒かどうかの見分けが付かない。」
更に進んだ所に洞窟を見つけるが近くからガサガサと草むらから音を鳴らしながら何かが近付いて来るのを察知し咄嗟に樹の影に隠れていると人間の子供位の背丈の全身が緑色で腰蓑を着けた二本角で棍棒を持った怪物〘ゴブリン〙が姿を表しキョロキョロと周囲を警戒するかの様に辺りを見渡した後に洞窟の中に入ると今度は弓矢を持ったゴブリンが出て来るとその場に立ち左右を確認し見張りをしている様だった。
(あれってゲームに出てくるゴブリンだよな? じゃあ本当に異世界なのか、情報も無いし今見つかったら確実に負ける! 最悪死ぬ!! あの洞窟でせめて野宿でも出来たらと思ったけど無理そうだな。)
安全な場所と食料を探す為に再び探索をしようと後退ると落ちていた木の枝を踏んでしまいパキッと音を鳴らしてしまい反応したゴブリンが俺に気付いて弓矢を引き始める。
「やべっ、やっちまった!」
「ギー!」
「うわっ、危ねっ!!」
ゴブリンから放たれた矢を樹々に隠れながらやり過ごすが諦めていないのか執拗に俺に向けて矢を放ってくる。
(くっそ、しつこいな反撃しようにも武器が……いや有る! この石を投げて攻撃するか。)
「ギー。」
「オラッ! これでもくらいな!!」
「ギャッ!!」
石をゴブリン目掛けて投擲すると頭に当たり緑色の“体力ゲージ”の様な物が見えた。
HP3/2
(なんだあれ、もしかして体力か?)
「ギィ……。」
「もしそうなら、これで終わりだ!」
「ギャー!」
足元の石ころを素早く拾い上げ二つ一気にゴブリンにぶつけるとHPが0になったところでゴブリンが消滅し“紫色の石”と持っていた“弓矢”が地面に落ちた。
「はぁ……はぁ……、なんとかなった。 これはたぶんラノベでよくある“魔石”ってやつかな? それと弓矢も無いよりマシだから拾っておくか。」
弓と矢三本と魔石を拾い茂みを無造作に進むと開けた場所に出る。
「これって、焚き火の後か!? まだ温かい、近くに人が居るんだ! おーい誰かー、居るなら返事してくれー!!」
ガサガサ……
「あ、すみません俺道に迷っ……て…………。」
大声で人を呼ぶと後ろの草むらから音を鳴り振り向くと現れたのは人ではなく二メートルを超え鼻息荒くし大きな牙を持つ巨大な猪“グレートボア”だった。
「ブモオオオオオ!!」
「うわあああああああああああああああああ!!」
俺は突進してくるグレートボアから道なりになっているところを逃げるが歩き回ったりゴブリンと戦ったりし疲労が溜まっており脚がもつれ転倒してしまう。
グレートボアの方を向き腰が抜けた状態で後退る俺に狙いを定めて再び突進され死を覚悟し眼を閉じた時、物凄い音が鳴ると男性の声だろうか心配するかの様に声をかけられる。
「おい、あんた大丈夫か?」
「た、助かった……。」
「ここじゃ見ない顔だな、この時間帯は森の中は危険だぜ?」
ゆっくりと眼を開くと筋肉ムキムキで半裸で短パン姿の紫色の髪の毛がボサボサの男が俺を覗き込み、その後ろでは先程のグレートボアの頬の部位に拳の痕が残っいた。
「聴こえてるのか? おい…………」
安堵した俺は全身の力が抜け意識が飛び次第に男の声が小さくなっていく。
しばらくするとパチパチと何かが焼ける薫りが漂い空腹状態の俺は目を覚ますと丁度良い位の倒木の上で布で身体が冷えないようにされていた。
「お、眼え覚めたか?」
「あ、えっと……その………助けてくれて有難う御座いました。」
「はっはっはっ! そう畏まらなくても良いぜ、それより腹減ってねーか? 今日の獲物はグレートボアだったから丁度良かったぜ!」
「あの、名前を聞いても?」
「まだ名乗って無かったな、オレは“リゼット・バルセロス”だ。 狩人をやってる、あんたは?」
「俺は“風間拓人”、信じてもらえるか分からないけど女神アルステラとかいう奴に森に放り出された。」
俺は木の枝を手にすると地面の砂に名前を書くと不思議そうな顔で文字をまじまじと凝視した後、ふと我に返った様に訪ねられる。
「女神アルステラだって!? 本当にそう名乗ったのかい?」
リゼットは女神アルステラの名を聴いて驚いた表情を浮かべると顎に指を当て考える。
「確かに名乗ってたけど、何かあるのか?」
「ああ実はな、ここ最近奇妙な事にあんたと似た文字を書く人間が増えていてな。」
「そうなのか?」
「ああ、何でも“神の使い”とかなんとか言ってたがやってる事がな。」
(俺以外にも転移者が居るって事か……話を聴く限りあの女神はこの世界に転移者を増やしているって事か? 一体何の為に?)
「ま、考えても埒が明かねえな。 ほれ、あんたからは悪い奴の気配を感じねえし腹減ってんなら食った食った! 臭みは有るが味は悪くねーぞ、何考えるにしても飯喰わねー事には纏まらねーからな。」
会話をしている間にグレートボアの肉が焼き上がり、こんがりと香ばしい匂いが鼻を抜け空腹の俺はその肉の塊に齧り付くと臭みより甘い肉汁と柔らかな肉質で一気に食べ進める。
「良い食いっぷりだな!」
「ムシャムシャ、ゴクン……ゲホッゲホッ!」
「相当腹減ってたんだな、そう慌てるなよ水もあるからな。」
「ゴクゴク、プハ……あの……なんで優しくしてくれるんだ?」
「簡単な事さ、俺は人助けが趣味だからな! しっかし、あの量を一人で全部食い切るとは思わなかったぜ!」
「あっ、すみません! 俺食べるのに夢中でリゼットさんの分まで!!」
「良いって事よ、また誰かを救えないってのはうんざりだからな……。」
気付けばグレートボアの肉に夢中になっていたせいか自分でも一人で夷らげた事に驚きを隠せずにいた。
「そうだ、行くとこないならオレが街まで案内してやるよ。」
「良いのか、でも街に着いたところで無一文なんだが……。」
「ははは、問題無いさギルドに着けば仕事なんて幾らでも見つかるからな。 今日はもう遅い、オレが見張っといてやるから安心して眠りな。」
こうして俺はムキムキマッチョなナイスガイのリゼットに助けられ食べ物まで恵んでもらい朝まで寝る事にした。