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第11話

彼の言う通りだ。

もし彼が普通のスピードで成長していたなら、僕は確実に他のアルファの物となっていただろう。

だが彼と出会えた今、僕はこの運命に感謝しかない。

それを思い、感極まってまた涙が流れる。


「ユウキ……」


彼が不安そうな顔をして、僕を覗き込む。


「ユウキは俺の事をどう感じた?俺の事を嫌がっていないとは思うが、出来れば確かな言葉が欲しい」


彼は困ったような戸惑ったような、何とも微妙な表情をし僕を見つめる。


「いきなり運命を持ち出され、まだ実感が湧かないと言うのなら、俺はユウキに好きになってもらえるよう努力する。たとえそのためにどれほど時間が掛かろうと待つ事は出来るよ」


先ほどドクと言う人の前で見せた表情とは違い、自信なさげな顔をして僕に問う。


「これは…嬉し涙です。あのビルのガラス越しに会った時、ううん、きっと生まれた時から、僕はあなたのために存在していたんだ。そしてこうして出会えた、それが嬉しくて。あなたは僕を守るために自然の摂理を曲げてまで背伸びしてくれたのではないかと……そう思うと僕は何て幸せなんだろうって」

「ユウキ…」

「ありがとう。僕が他のアルファの物になる前に来てくれて」


そう、僕は誰の物でもない、あなただけの物だから。




それから僕達は限られた時間を堪能した。

他愛もない話をしたり、笑ったり。

そしてキスをしたり。


「だけど、人から聞いた話だと、運命の番が出会うと自我を忘れるほど感情のコントロールが出来なくなると聞いていたけれど、ずいぶんと話を盛っていたんだね」

「えっ?」


うわっ、僕は何てはしたない事を言ってるんだ。


「ユウキは分かっていない。俺がどれほど我慢し平静を装っているかを」

「は?」

「俺は早熟だったと言っただろう?既にそう言う欲求は有るんだよ?もし自分の誓いを反故するなら、すぐにでもユウキに襲い掛かる事が出来るんだよ?」

「えっ?えっ!?えっ!」

「俺の強靭な自制心を褒めてほしいぐらいだよ。それにユウキは抑制剤を服用しているだろう?もしそれが無ければ、今頃大変な事になっていると思うよ?」

「そっ、そうなの?」


確かに全てを投げ出してもいいほど、無条件で彼に惹かれている。

だけど本であったみたいに、理性が無くなるような事は無かったなと思たんだ。

でも良く考えれば、確かに僕がヒートを起こしオメガとして目覚めた直後から、僕に合った抑制剤を飲み続けていたんだっけ。

きっとそのせいか。

もし僕がそれを飲み続けていなければ、今頃………。

そう思ったとたん、大切な事を思い出した。


「あーー!」

「な、何?どうしたんだユウキ」

「い、いや、何でもない」


僕はあそこからは何一つ持ち出していない。

つまり抑制剤すら持ち出していないのだ。

ではもし突然ヒートが起きたらどうする?

彼の目の前で醜態は晒したくないのに。


「何でもなくは無いだろう?一体何が起きたんだ」

「ほ、本当に何でもないんだ」


ど、どうしよう。

既にオメガとして目覚めた僕は、抑制剤が無いと正気が保てず、彼に番いたいと迫る可能性大だ。

彼はまだ15歳の少年、それが問題では無くて何と言うのだろう。

でもそれを彼に伝えるなんて、恥ずかしくて出来ない。


「俺には言えない事か?」

「だ、大丈夫、大した事じゃないから…」

「その様子じゃ大した事みたいだな。もしかして俺以外の奴になら言えるのか?」


心配そうに彼が言う。

本当は彼に言うべきなのだろうが、まだそこまで踏み込めない。


「さて、そろそろ時間だしユウキの父上達に会いに行こうか」

「えっ?」

「それは自分の親になら話せるだろう?ユウキに辛い思いをさせたくないから、それを取り除くために早く行こう」


違うのに。

僕は自分の事しか考えず、彼の気持ちを思いやる事もせず、また心配を掛けてしまった。


「ごめんなさい!あの…僕あそこに忘れ物をしてしまって…」

「それは何?こちらで手に入れられるものならすぐに用意するし、ユウキの思い入れの有る物ならばすぐに連絡をして送ってもらおう。だからもし良ければそれがなんなのか教えてくれないか?遠慮する必要など無いんだよ。俺はユウキのためならば何でもできるんだから」

「そんなに大げさな物じゃなくて…でも絶対に必要で…それもなるべく早く………もういいです。父さんたちの所に行きましょう?」


最後に服用してからかなり時間が立っているはずだ。

一刻も早く手に入れなければ、彼の前で醜態をさらしかねない。

それだけは絶対に避けたいんだ。


「待ってユウキ!」


彼は離れようとした僕の腕を掴み、グィッと引き寄せる。

その力があまりにも強くて”ほら、自分をまだ子供だなんて卑下する必要は全然ないのに”と思ってしまう。


「悪かった。ダメだな俺は。やはり自分勝手でユウキを思いやる気持ちが足りないな」


彼はそう言い、そっと僕の手を引き部屋から出ようとする。

そんな、謝るのは僕の方なのに。

僕の方こそ彼を思いやる事が出来ず、勇気さえ持ち合わせない小心者だ。

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