ジークハルト6
「お前が嫌でも、お前がしでかした結果だ。本当にバカなことをしてくれた。リステネ侯爵とは、たとえお前が婚約継続を望んだとしても、リリアーナ嬢が嫌がれば婚約は解消することで話がついている」
「父上!」
「あたり前だろう。落ち度はお前にある。一方的にお前が悪い。リリアーナ嬢は王家主催のパーティーで面子を潰されたのだ。潰したのはお前だ。何を思ってあのような行動をしたのかは知らんが…。お前が婚約解消を避けるには、リリアーナ嬢に許してもらうほかに道はない。リリアーナ嬢に許してもらえたとしても、リステネ侯爵の許しがでるかはまた別だがな」
父が非情にもそう告げるのを、わたしは茫然と聞いていた。
「こんやく…かいしょう…」
再び言葉が漏れた。
思い出されるのは、第二王子の誕生パーティーでのリリアーナの表情だった。一瞬の、あの強張った、陰った瞳は、見間違いではなかったのだと…。
父に泣きつき、どうにかリステネ侯爵へ取りなしてもらえるように頼んだが、どうしようもないと首を振られてしまった。
婚約解消はしたくないこと。謝罪をしに伺いたい、リリアーナと会って話がしたいことを、父からリステネ侯爵へ伝えてもらえることになった。
父との話が終わり自室へ戻ると、もう身体に力が入らなかった。倒れるようにソファへ座り、頭を抱える。
「こんやく…かいしょう…」
知らずにつぶやいていた。
どうしてこんなことになってしまったのか。こんなつもりではなかった。そんなことを考えても、どうしようもないことはわかっていたが、後悔のあまり叫び出しそうだった。
「リーナ…」愛しい彼女の愛称を呼んだ。他の誰かが、彼女をそう呼ぶのを聞くなど耐えられない。彼女がわたしではない誰かに優しく微笑みかけるなど、想像しただけで吐き気がする。ましてや、他の誰かと婚姻し、子供をもうけるなど…自分は気が狂ってしまうだろう…。
許してもらえるように、どうにかしたい。彼女に会いたい。何度も、何度でも彼女に謝ろう。
リーナに会いたい…。
リーナのことを考えるうち、夜は更けていった。