ジークハルト5
父に呼ばれて書斎へ向かった。いつもならまだ父は帰宅していない時間であったが、執事に聞くと父はいつもより早く帰宅しわたしの帰宅を待っていたという。
「お前はなんということをしてくれたのだ」
書斎に入ると開口一番でそう言われた。
「リステネ侯爵と朝一番で面会をした」父はそう溜息をついた。
「申し訳ありません」わたしは父に頭を下げた。
「謝罪は不要だと言われたぞ」
「は?」父から言われた言葉が理解できなかった。
「リステネ侯爵から、昨晩の件に関して謝罪は不要だと言われた。抗議に来たのではないと。リリアーナ嬢がそう望んでいると」
「リリアーナが抗議はしなくてよいと言った?」
思わず口元がほころんだわたしを見て、父は一層声を低くした。
「バカもの。抗議されたほうが余程ましだ。リリアーナ嬢は、お前の意向を確認してほしいと言ったそうだ。自分との婚約関係を継続するのか、婚約を解消するのかと」
「こんやく…かいしょう…」
「キリアス公爵家としてではなく、お前の意向が聞きたいと。お前が婚約解消を望むならば、婚約を解消させてほしいと父親に頼んだそうだ。自分を想ってくれる相手に嫁ぎたいと」
「そんな…」思わず声が漏れた。
「つまりはキリアス公爵家としてはどうしようもないということだ。お前は…まあ、婚約解消など望んではいないだろうが…」
「あたり前です!リリアーナと婚約解消など嫌です!」
叫ぶように言葉が出た。