ジークハルト3
学園には、貴族の令嬢と令息が通っています。必ず入学しなければいけない規則はありませんが、顔つなぎのために通うのが暗黙の了解になっている設定です。
パーティーの翌日。学園に着くと、嫌に多くの視線を向けられた。しかし、そんな誰かの視線にかまっている場合ではない。一刻も早く、リリアーナに会わなければということしか頭になかった。
リリアーナを探したが、姿が見えない。
休憩時間にリリアーナのクラスに行ったが、今日は来ていないという。
リリアーナの弟のクラスに行ってもみたが、弟のアランも来ていないという。
仕方なく、教師の控え室に行き、リステネ侯爵姉弟のことを聞くと、二人ともにしばらく休むと連絡がきたと教えてくれた。
早退し、リステネ侯爵家を訪ねようか思案しながら歩いていると、ふいに誰かに腕に抱きつかれた。
「ジークハルト様、探しました」
媚びるような声の主は、昨晩エスコートした男爵令嬢だった。名前はなんだったか…。
「勝手に触るな」
そう不機嫌に返し、腕を振り払ったが、それでもまた抱きつこうとしてくる。
「嫌ですわ。私です。昨日は楽しかったです」
当たり前に話かけてくる。いくら学園内とはいえ、わたしは公爵家で、彼女は男爵家。格が違いすぎて、本来なら彼女から話しかけてくるなどあり得ない。しかも、名前を呼ぶことを許した覚えはない。
「マナー違反だ」
不愉快を隠さず告げるが、女はめげない。
「マナー違反だなんて。私とジークハルト様の仲ではありませんか」
「わたしと君は何の仲でもないはずだが?それに、名前で呼ぶことを許した覚えはない。失礼だろう」
声が低くなる。
「何の仲でもないなんて、ひどいですわ。王族主催のパーティーに同伴してくださったのですから、私のことをそういうふうに考えて下さっているのでしょう?
みんなも言っていますわ。ジークハルト様がリステネ侯爵令嬢との婚約を解消して、私を婚約者にしてくださるつもりなのだと」
何を言われたのか、理解できない。わたしがリリアーナとの婚約を解消して、こんな女と婚約など、するはずがないだろう。
みんな…。
呆然と周囲を見回すと、男爵令嬢の言葉を肯定するような雰囲気が、わたしの周りを取り囲んでいた。
そこで、わたしがリリアーナに対してしでかしてしまったことの意味に気づいた。
知り合いのパーティーならいざ知らず、王族主催のパーティーで、婚約者以外の女性をエスコートしたこと、対の衣装を着てしまったこと、あげくダンスまで踊ったこと。
それは、今の婚約者との関係解消をしたいと示唆するには十分で、周囲にそう思わせてしまった。婚約者の顔に泥を塗り、面子を丸潰しにする最低な行いであったことに、今さらながら気づき、わたしは顔色をなくした。