ジークハルト1
喧嘩の原因が何であったか…それは、忘れてしまうほど、他愛ないことだった気がする。
喧嘩をして、仲直りできないまま時が過ぎていった。いつもはどちらからともなく、仲直りができていた。しかし、今回は話しかけるきっかけも見つけられず、時間だけが過ぎていった。
もうすぐ第二王子の誕生パーティーがある。しかし、彼女にエスコートの申し込みができずにいた。
そんなとき、通りかかった学園の中庭での会話が聞こえた。下位貴族の令嬢が、爵位が低い故に王族の誕生パーティーに出席したことがない。一度出席してみたい。夢なのだという内容だった。
それを聞いて、その令嬢をエスコートしてパーティーに出席することを思い付いた。
ただ、婚約者が嫉妬してくれるのではないか。話をしてくれるきっかけになるのではないか。そんな些末な思いからだった。王族主催のパーティーでほかの女性をエスコートすることがどのような意味を持つのか、失念していた。
誘った男爵令嬢は、輝くばかりの笑顔で、頬を紅く染めていた。着ていくドレスがないというので、こちらで手配してやることにした。
誕生パーティー当日、城で待ち合わせた。エスコートする令嬢を迎えに行くことはしなかった。
城で合流し、そこで初めて、男爵令嬢がリリアーナのためにデザインし製作してもらったドレスを着ていることに気づいた。仕立屋が勘違いし、あのドレスを届けたのだろう。リリアーナのためのドレスなのだから、男爵令嬢に似合うはずはなかった。気品が違う。改めて、リリアーナの美しさを認識した。
あの時、自分と対になる衣装だとわかった時点で、令嬢に着替えてもらうか、自分が着替えるかすればよかったのだ。それをしなかった自分を、今さらながら叱り飛ばしてやりたい。
城に入ると、まだリリアーナは来ていないようだった。会場の入り口を気にしつつ、第二王子への挨拶の列に並んだ。第二王子からは、何か言いたげな視線をもらったが、特に問題なく挨拶と祝辞を済ませた。
エスコートしている男爵令嬢がやけにくっついてきて、鬱陶しい。エスコートのされ方すら、リリアーナにはかなわない。