ジークハルト9
屋敷へ戻り馬車から下りると、わたしの顔を見た執事からギョッとした顔をされた。
「ジークハルト様?」
「なんだ?」
「いえ…あの…お顔が…」
言い淀む執事に、そんなにひどい顔をしているのか聞くと、歯切れの悪い返事を返された。
リリアーナのところで散々泣いたので、瞼が重い。
父がもう帰宅しているとのことで、父の書斎へ向かった。
「ひどい顔をしているな…」
開口一番の父の言葉だ。
父にリリアーナから許しを得たことを報告すると、心底安心した顔をされた。父の息をつく音が聞こえる。
リリアーナの体調が戻るまで、彼女の元に通いたいと父に頼むと、リステネ侯爵が許可すればかまわないと言われた。勉強も手伝いもしっかりやるなら、学園は休んでもよいと許可を得た。
父がリステネ侯爵に連絡を取ってくれると言ってくれ、明日早速挨拶に行けと言われた。
父の書斎を出ると、母が待っていた。
「ひどい顔ね…」
皆同じことを言う。
「そんな顔をさらしているのですから、それなりの成果は得たのでしょうね?」
リリアーナから許しを得たと報告すると、「でかした」と背中をバシバシ叩かれた。
父の許しが出たので、明日からリステネ家へ通うと報告すると、元気になったらすぐに連れてくるように言われた。
「もうわたくし、リリちゃん不足よ。早く会いたいわ。わたくしの可愛いリリちゃんに精一杯尽くすのよ。リリちゃんのためというなら、多少のことは目をつぶりますからね。いいわね」
リリアーナが回復したら連れてくると約束すると、母は浮き足だって戻って行った。
翌日、早めに屋敷を出てリステネ侯爵家へ向かった。
門の前で待っていると、侯爵であるリリアーナの父が馬車で城へ向かうところを捕まえることができた。
侯爵に頭を下げる。
「中に入って来ればよかろうに…」
そう声をかけてくれた。顔をあげると、昨日から見慣れたギョっとした顔をされた。
「ひどい顔だな」
聞き慣れた言葉をもらう。リリアーナに許してもらえたことを報告し、二度と繰り返さないことを誓った。
「当たり前だ。二度目はない。もし再びリリアーナを傷つければ、娘が許してもわたしが許さない」
そう言われた。
「リリアーナはまだ休んでいる。茶でも飲んで待っていろ。まったく…ひどい顔だ…」
笑いながらわたしの頭をわしわしと撫で、侯爵は馬車に乗り込み行ってしまった。
リリアーナの父からも許しが得られたことに安堵する。昔と同じように頭を撫でてもらえたことが、本当に嬉しかった。
侯爵家の屋敷に入り、使用人たちからまたギョっとした表情を向けられた。お茶を飲んでいると、リリアーナと会う前に、アランに会った。
アランからもギョっとした表情を向けられた。アランが冷たいタオルを準備してくれ、幾分マシな顔になった頃にリリアーナが現れた。
走り寄り抱きつくと、リリアーナの匂いがした。抱き締めて挨拶をする。
わたしの顔を見て、リリアーナも同じ言葉を口にした。
「ジーク、ひどい顔よ?」
わたしの頬に両手で触れ、微笑むリリアーナが愛しい。今日はずっとリリアーナといられると思うと、自然と顔が綻んだ。




