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リリアーナ2

屋敷へ戻る馬車の中、わたしは悲しみでいっぱいだった。怒りはなかった。ただただ、悲しかった。


王族主宰のパーティーに、婚約者以外の女性をエスコートすることが、どのような意味を持つのか。二人で対になる衣装を着ることが、どのような意味を持つのか。あまつさえ、二人でダンスを踊ることが、どのような意味を持つのか。

彼は知っているはずだ。


屋敷へ戻ると、家令に父と話がしたいと告げた。出掛ける前とうって変わって暗い表情のわたしに、何かを察したのか、家令は父が帰宅次第わたしの希望を伝えること、今日中に父と話せるように計らうことを約束してくれた。

今から、わたしに何があったのかを弟に聞くのだろう。弟を呼び止めていた。

予定より早い帰宅だったが、メイドたちがすぐに入浴の準備をしてくれた。身を清め、準備してくれた軽食を口にする。

何も考えられず部屋でぼうっとしている間に、父は帰宅していた。家令と弟から事情を聞いた後、わたしは父の書斎に呼ばれた。


「事情は聞いた。明日、キリアス公爵家に正式に抗議をする。それでよいか?」

父はそう言ってくれた。わたしに非があるなど一言も言わず、あちらが悪いと言ってくれた。

婚約者の気持ちを繋ぎ止められないお前が悪い、わが家の面子を潰した、そう言い責める父親もいると聞くが、わたしの父は、わたしが不当に扱われたと怒ってくれている。

父がわたしの味方であることが嬉しかった。

「いいえ。お父様、抗議は必要ありません。

ただ一つお願いがございます。ジークハルト様のお気持ちを確認していただきたいのです。わたくしとの婚約関係を解消したいのか、それとも婚約関係の継続を望むのか。キリアス公爵家としてではなく、ジークハルト様ご本人の意向を確かめていただきたいのです」

にじむ視界で父を見つめて、言葉を続けた。

「ジークハルト様が婚約解消を望まれた場合は…お父様が許してくださるなら、婚約を解消させていただきたく存じます…。我が儘であることはわかっておりますが、わたくしは…わたくしを心に留めてくださる方のもとに嫁ぎとうございます」

わたしの瞳から涙がこぼれた。父が大股で近づき、抱き締めてくれた。

「わかった。キリアス公爵に伝えよう。キリアスの小僧がお前との婚約解消を望むなら、もちろん婚約を解消してよい。ほかにお前が幸せになれる嫁ぎ先を見つけてやる。お前を泣かせる者へ嫁がせはしない。

たとえ、あの小僧がお前との婚約継続を望んだとしても、お前が嫌なら婚約を解消してよい。お前の好きにしなさい」

父は優しく頭をなで、涙をぬぐってくれた。


心配せず休むように言われ、部屋へ戻る。メイドが寝支度を整えてくれ、ベッドへ入った。

浅い眠りの中で、ジークハルトの夢を見た。わたしではない女性に微笑みかけ、手を取り合って歩いていく。わたしから離れていく。

目が覚めると、頬が濡れていた。目覚めても、涙があとからあとから溢れてきて、自分では止めることができなかった。

「ジーク…」

自然と彼の名を呼んでいた。婚約を解消すれば、もう呼ぶことはない彼の愛称。幼い頃から、ずっと呼んできたのに。もう、彼がわたしに手を差し出すこともなくなるのだろうか。微笑みかけてくれることもなくなるのだろうか。わたしだけが知っていた、幼い頃から変わらない本当に嬉しい時の笑顔も、はにかんで照れる姿も、もう見られないのかもしれない…。もう、終わりなのかもしれない…。

彼が去っていく夢を見て、眠るのが怖くなった。まだ夜は明けない。どうしていいかわからない、バラバラになりそうな気持ちを少しでも落ち着けようとして、外の空気が吸いたくて窓を開けた。

窓辺の椅子に座り、ぼんやり外を眺めていても思い浮かぶのは彼のことだった。「リーナ」と愛称でわたしを呼ぶ声も、抱きついた時の匂いも、すぐそこにあったのに…。外の空気が冷たいのか、わたしの頬を伝う涙が冷たく感じる。

そして、わたしは整理できない頭と心に疲れたのか、泣き疲れたのか、そのまま意識を手放してしまった。

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