リリアーナ6
ミソラにジークと二人で話がしたいと、人払いを頼んだ。その間も、ジークはわたしから離れない。ミソラや家令は、わたしがジークと二人きりになることを嫌がったが、アランが説得してくれた。
「ジーク、きちんとお話をしましょう?」
このままジークに絆されて有耶無耶にはできない。きちんと二人でお話をしましょう。わだかまりを抱えたままでは、わたしはあなたと一緒にいられない…そう伝えると、ジークはビクっと体を震わせた。
「嫌だ…リーナと一緒にいたい…」
そう消えそうな声でジークが言う。
「今話さないとダメよ…。ジーク、わたし苦しかったわ…悲しかった…。あなたが好きだから、辛かった…。今回のことを整理できずに流されたら、わたしは何かある度にきっと思い出すわ。そして、いつかあなたを信じられなくなる…。あなたを信じられなくなるくらいなら、わたしはあなたとさよならするわ…。あなたを愛さなければよかったと思いたくないもの…」
ジークの手に力が入った。
ジークの頬に、また涙が流れる。再び顔をぐちゃぐちゃにしながら彼は語った。
話し終えた彼の頬を、両手で強めに挟んだ。ペチっと音がする。そのまま額をくっつけて話しかけた。
ジークのぐちゃぐちゃの顔は拭いてあげない。もう少しそのままでいればいい。
「わたし、辛かったわ…悲しかった…」
「ごめん゛…」
ジークが鼻声で答える。
「ジークがわたしから離れていくのだと思った…」
「ぞんな゛の…」
「ジークがいなくて、寂しかった」
「ずっと…会いだがった…」
「わたしも会いたかった」
「う゛ん…」
「お花、毎日ありがとう」
「う゛ん」
「花冠…覚えててくれて、嬉しかった」
「う゛ん…だいじな思い出だがら、わずれない゛…」
ゆっくり瞳を閉じると、合わせた額の熱が心地よかった。ジークが鼻をすする。もう、顔を拭いてあげようか…。
「もうしない?」
「二度とじない。も゛う、ぜっだい泣がせない。ごめん゛」
「約束よ?」
「う゛ん。ごめ゛ん」
「好きよ…ジーク…」
「ぼぐも愛じでる」
額を離して、ジークに微笑みかけると、彼が本当に嬉しそうな顔をした。ハンカチで顔を拭いてあげる。
再び彼に抱き締められた。身体の力を抜いて、ジークに身を任せると、彼はわたしの肩口に顔を埋めた。
「愛してる。リリアーナ、愛してる。もう絶対泣かせないから、大切にするから…どうか、ぼくと一生一緒にいてください」
そうそっと囁いた。ジークの背中に手を回し返事を返す。
「わたしも愛してるわ。一生一緒にいてあげるけど…」
その言葉に、ジークが顔を上げて不安そうにわたしを見つめる。
「プロポーズはやり直しよ?ちゃんと目を見て愛を誓って。それに、毎日愛を囁いてくれないと嫌よ?」
そう告げて、彼に抱きついた。
ジークが抱き締め返してくれる。彼はまた泣いているようだ。頭の方から鼻をすする音が聞こえる。
大好きな匂いと体温を感じて、わたしは自分の心が暖かさを取り戻していく気がした。