リリアーナ5
いつものようにミソラに連れ出され、庭でお茶をした。暖かな陽射しにウトウトしたところで意識が途切れた。
気付くと、懐かしい匂いがした。
誰かに触れられて抱き締められている。目覚めて、ぼんやりした意識でそう思うと、さらに大好きな匂いがして、無意識に言葉が出た…。
「…ジーク…?」
知らずに呼んでいた。
わたしを抱き締めていた腕が一瞬緩み、ジークの顔が見えた。また強く抱き締められる。
夢かと思った。ジークがここにいるはずがない…そう思うのに、確かにジークの匂いがする。
ようやく意識がはっきりしてくると、確かにわたしはジークに抱き締められていた。
わたしを抱き締めて、何度もごめんと繰り返すジークの身体が震えている。一人称が「ぼく」になっていることに、彼は自分で気づいていない。周りに人がいることにも構わず、ごめん、愛してるとただジークは繰り返した。
大人に近づき、ジークハルトは一人称で「わたし」と言うようになったが、取り繕う余裕がないときは自然と「ぼく」と子供の頃のように話す。これも、わたししか知らないこと…。
ジークの顔を見ようとしたが、彼はわたしから離れない。そっと彼の頭を撫でると、少しジークの力が抜けた。久しぶりに触れたジークの髪は、記憶の中と同じに柔らかかった。そっとジークの顔に手をかけ、上向かせて瞳を見つめる。
ジークは目を反らさずにまっすぐ見つめてきた。わたしと見つめ合う彼の瞳から、次々に涙が溢れる。
ジークの瞳から、抱き締められている腕から、わたしが愛しくてたまらないという想いが伝わってくる気がした。
「ジーク…お顔がすごいことになっているわよ」
ハンカチで、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたジークの顔を拭うが、彼の涙は止まらない。
「ジーク?」
抱き締められたままでは拭きにくいので、ジークに離してくれるように伝えたがジークはわたしから離れない。
「離れてしまったら、リーナにまた手が届かなくなってしまいそうで、恐い…」
嫌だ、離れたくないとジークはまた涙を流した。