ジークハルト8
そこに、リリアーナがいた。
毎日、何度も頼み込み、なんとかアランに侯爵家へ連れて来てもらうことができた。
門番にも家令にも、睨まれ阻まれたが、アランがとりなしてくれた。遠くから一目見るだけ…決してリリアーナに接触しない。そう約束して、ようやく敷地の中に入れてもらうことができた。
三か月ぶりに見たリリアーナは痩せてしまっていた。顔色もあまりよくない。
リリアーナに会えた喜びと、やつれてしまったリリアーナへの痛ましさに、胸が軋んだ。
全てわたしが悪いのだ。リリアーナがあんなになるくらい傷つけたのは、まぎれもなくわたしなのだ。罪悪感と申し訳なさと、彼女への愛しさといろいろな感情が自分の中で暴れていた。
庭にあるガゼボの見える茂みに、アランと一緒に身を隠していた。リリアーナに会いたくて、声が聞きたくて、触れたくて…飛び出しそうになる自分を必死に押し止めた。アランとの約束を破れば、次の機会はもらえないだろう…。
リリアーナはクッションにもたれて眠っていた。
側に、彼女の侍女であるミソラが控えている。
リリアーナから目が放せず、彼女を見つめてしまう。しばらく彼女を見つめていると、彼女の頬から一筋の涙が流れた。
「…ジーク…」
そう、かすかな声でわたしを呼び、再びこぼれる涙。
彼女の声が耳に届いた途端、もういてもたってもいられなくなった。胸が締め付けられる。
気がつくと、アランとの約束を忘れて、彼女のもとへ駆けていた。わたしに気づいて行く手を阻もうとするミソラをなんとかかわし、リリアーナのもとへたどり着く。
彼女の顔に手を触れ、親指で彼女の頬を拭った。拭いきれない涙の跡に、胸が苦しくなる。
そして、彼女を抱き寄せた。彼女の身体が知っているより一回り細くなっていることに心がギシリと音を立てる。彼女を抱き締めて、その髪に顔を埋めると、懐かしい大好きな匂いがして、涙が溢れた。
「リーナ、リーナ…」
彼女を抱き締める腕に力が入る。
「……ジーク…?」
ぼんやりと、かすれた声でリリアーナがぼくを呼んだ。目覚めた彼女の身体を一旦離し、瞳を見つめて再び腕に抱いた。寝起きでまだぼうっといているのか、抵抗しない彼女に、すがるように抱きついた。
「リーナ、リーナ、ごめん…ごめん。ぼくが悪いんだ。全部ぼくが悪い。君を傷つけて、泣かせてごめん。…君が好きだ…君しかいらない…ぼくには君だけなのに。本当にごめん。…ごめんなさい。君を愛してる。君がいないなら、ぼくの人生に意味はないんだ。ごめん。リーナ、本当にごめん。君を失ったらぼくは生きていけない。どんな償いでもするから、ぼくの側にいてほしい。許さなくてもいい。一生ぼくを許さなくてもいい…でも、ぼくを捨てないで。お願いだ…リーナ…本当に君だけなんだ。ぼくは本当に愚かでどうしようもない。それでも…君がいないと生きていけない。君がいないことに耐えられない。愛してる。リーナ、本当にごめん…ごめん。リーナ、ごめんなさい。君しかいらない。君だけを愛してる。リーナ、リーナ…」
顔を上げられず、リリアーナに泣きすがる。彼女を抱きしめた腕を離すこともできなかった。