アラン4
ジークハルトからの差し入れは、持ち帰ってお茶の時間に姉に食べさせた。時々何かを持ち帰るようになったぼくに、姉は何も言わなかった。でも、公爵家の料理人が作った菓子で、姉は気づいたようだった。
「これはどうしたの?」
姉に尋ねられた。街で人気の菓子を買ったのだと誤魔化すと、姉は「そう」と言っただけだった。
姉はその菓子を一口食べて、懐かしそうな表情をした。「子供の頃、これが好きだったわね…」そう小さく呟いた。姉の侍女であるミソラは何かを言いそうにしていたが、姉の穏やかな表情を見て黙って給仕を続けていた。出処よりも姉が食べてくれる方を優先したようだ。
差し入れを食べたかどうかを含めて、姉の様子をあの人に教える日々が続いた。
差し入れがジークハルトからだとわかったかもしれない…そう伝えると、あの人はしばらく考えこんでいた。
月日が経ち二月が過ぎた頃、手紙を託された。ぼくが難色を示すと、あの人は「手紙は君が中を見て構わない。君が確認して、リリアーナに渡して大丈夫だと思ったものだけ渡してくれればいい…」そう言った。
ジークハルトからの手紙には、謝罪と姉への愛が綴られていた。
渡せないかもしれないとあの人に伝え、それでもよいと言われたので手紙を預かった。
緊張しながら姉に手紙を渡す機会をうかがった。ミソラに不審がられたが、結局姉には直接渡せなかった。こっそり姉の部屋に入り、机の上に置いてきた。
翌日、姉の部屋へ行き確認すると、手紙はなくなっていた。姉が手紙を読んだのかどうかはわからない。姉は、机を気にするぼくに気づいていたが、何も言わなかった。
ジークハルトには、直接渡せなかったことも、姉が手紙を読んだかわからないことも、そのまま伝えた。それでも、それから何度か手紙を託された。
あの人から姉への花束は、変わらずにずっと届けられていた。今では、姉の部屋は飾りきれないほどの花で溢れている。
三月が経つ頃、姉に会わせてほしいと懇願されるようになった。ぼくはあの人を「ジーク様」と呼ぶようになっていた。姉は、まだ学園には来られない。どうにかして会えないか…ジークハルトから何度も相談された。何度も頼まれ、頭を下げられた。
姉は、あの人へ花の礼をしたことがなかった。花は拒否せず受けとるがそれだけ。気づいているだろうが、差し入れのことも姉は何も言わない。手紙は読んでいるかわからず、もちろん返事はない。
たぶん無理をして時間を作り、姉に赦しを請おうとしている。あの人の努力はわかる…絆されてしまうくらいには…。姉の反応がなさすぎて、わからなさすぎて、あの人も張りつめてきていた。
ただ一目でいいから、姉に会いたい。遠くから姿を一目見るだけでもいい。ジークハルトから頼まれた。泣きそうな顔で懇願された。
ぼくは絆されてしまった。
遠くから見るだけだと約束した。
ある晴れた日、屋敷に戻るぼくはジークハルトを連れて帰ることにした。