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アラン3

昼が近づき、伯爵令息へ挨拶をして屋敷へ戻るため教室を出た。

「アラン。待ってくれ」

馬車へ向かう途中、呼び止められた。あの人の声だと思い、立ち止まらずに歩き続ける。

あの人がぼくの行く手に立ちはだかった。走ってきたようで少し呼吸と髪が乱れている。

「何ですか?キリアス様」

家名で呼ばれたあの人が顔を歪めた。「名前では呼んでもらえないのだな…」あの人がそう呟く。

「もう帰るのか?」

「はい」

「リリアーナはどうしている?少しでいい。リリアーナの様子を教えてもらえないだろうか…頼む」

あの人がぼくに頭を下げた。周囲に人がいるのにも、好奇の視線を向けられているのにも構わず、ジークハルトは頭を下げ続けた。

「あなたにお伝えできることは何もありません。姉のことは、もうあなたには関係のないことだ」

ぼくはジークハルトの横を通りすぎた。


冷たくあしらったのに、ジークハルトは毎日やって来た。伯爵令息の言っていた通り、日に何度か毎日ぼくを訪ねてきた。毎回冷たくあしらっていたが、本当に毎日訪ねて来るあの人に、次第にぼくは絆されていった。

あの人は忙しい人のはずだった。姉と仲睦まじい頃から、学業に公爵家領地の勉強に父公爵の手伝いなどやることがたくさんあった。なんとか週に一回、多くても週二回姉との時間を作るのが精一杯だった。そんなジークハルトが毎日ぼくを訪ねて来た。日に最低三回はやって来る。学園の講義に出ない日さえ、ぼくを訪ねるためだけに学園へ来ていたこともあったらしい。

ジークハルトがぼくの教室へ来るとどうしても周囲の目をひく。気にならないのか聞いてみると「周りの目を気にしてリリアーナを失えば、一生後悔する。今のわたしはアランに頼るほかにリリアーナの様子を知ることすらかなわない。醜聞など今さらだ。言いたい奴には言わせておけばいい。他の誰かを気にしている余裕はない」そう言われた。どうしてパーティーであのようなことをしたのか聞くと「わたしは愚かだったのだ。王族の主催だという意識が抜けていた…」ジークハルトと王子殿下たちは、再従兄弟(はとこ)にあたる。だから、親戚の誕生パーティーのようにしか思っていなかったのだと、ことの重大さに気づいた時には遅すぎた…そう語った。他にも、ぼくの質問には隠さず全て答えてくれた。


一月も経つと「キリアス様」から「ジークハルト様」へ呼び方が変わった。「ジークハルト様」と名前で呼んだ時、あの人は嬉しそうな顔をした。

しだいに、忙しいあの人にぼくは予定を伝えるようになった。無駄にぼくを訪ねて来なくていいように…そう思えるくらいには、あの人を許せない気持ちは徐々に薄らいでいった。あの人の誠意が、姉を失いたくない想いが本当だと思うようになっていった。

ぼくは姉の様子を少しずつ教えるようになった。

姉が食べられず、眠れず、痩せてしまったこと。食事を食べられないからお茶の時間に補食が出されていること。侍女がなんとか昼寝をさせていること。届けられた花を見て愛しそうに微笑むときがあること。花冠を大切そうにしていたこと。

少しずつ、あの人に姉の様子を教えた。

あの人は時々差し入れを持って来るようになった。公爵家の料理人が作った補食の菓子や栄養価の高いフルーツなど、自分からだとはわからないように姉に食べさせてほしいと渡された。


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