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アラン1

ずっと憧れていた。

姉と婚約者は、とても仲がよかった。いつも一緒にいてお互いを想い合う姿は、ぼくにとって憧れだった。ぼくもいつか婚約者ができたら、あの二人のようになりたいと思っていた。


姉の婚約者であるジークハルトは、穏やかで優しい人だった。あの人は姉だけでなく、ぼくにも優しかったし、可愛がってくれた。幼い頃は、あの人を本当の兄だと思っていた。何故違うところに住んでいるのか尋ねて、あの人が姉の婚約者でぼくの兄ではないと知った。

「ジーク兄さま」と呼んでいたぼくが「ジークハルト様」と呼ぶと、あの人は「兄さま」と呼んでほしいと言ってくれた。かわいい弟から兄と呼んでもらえないのは寂しい、いずれ本当に義兄となるのだから、兄と呼んでほしい、そう言ってくれた。それから、ぼくはあの人を「ジーク義兄(にい)さま」と呼ぶようになった。

姉と二人で出かけたいはずなのに、ジーク義兄(にい)さまはぼくも誘ってくれたし、姉が本を読んだり刺繍をしている側でジーク義兄(にい)さまと二人で遊んでいたこともある。

花がほころぶように笑う姉は、いつもあの人の隣で微笑んでいた。



ある日、姉から第二王子の誕生パーティーのエスコートを頼まれた。ジーク義兄(にい)さまはどうしたのか問うと、喧嘩中なのだと言われた。ジーク義兄(にい)さまからのエスコートがない。ジーク義兄(にい)さまは一人で出席するだろう…と。

姉をエスコートしたパーティー会場で、他の女性をエスコートしたあの人に会った。姉は何も聞いていなかったらしく、こっそり窺った姉の顔は強張っていた。姉の腕に力が入ったのが伝わってくる。改めて姉に視線を向けると、姉は段々に顔色を無くしていった。

あの人は、連れていた女性に自分と対になるドレスを着せ、女性が自分の腕にしなだれかかるのを許していた。おそらく、姉のためにしつらえていたドレスなのだろう…そう思えるほどに、ドレスが連れている女性に似合っていなかった。姉が着ていたなら、さぞかし美しく仕上がっていただろう…。

第二王子への挨拶を済ませてパーティーホールへ戻った。姉はあの人のところに行くのだろうと思っていた。どういうことなのか、あの女性は一体なんなのか問うのだと。けれど、ぼくたちが見たのは、あの人が連れていた女性とダンスへ向かうところだった。

姉はただ無表情でその光景を眺めていた。そして、完全に顔色を無くした姉に促され、城を後にした。


帰りの馬車の中で、姉は一言も話さなかった。遠い目をした瞳には、悲しい色をたたえていた。泣きそうな表情で、涙を堪えているようで、ぼくも胸が苦しかった。心が重くなっていった。

仲睦まじい二人が、幻のように消えていくように思われた。

王族主宰のパーティーに、婚約者以外の女性をエスコートすることが、どのような意味を持つのか。二人で対になる衣装を着ることが、どのような意味を持つのか。あまつさえ、二人でダンスを踊ることが、どのような意味を持つのか…。デビュー前のぼくでさえ知っているのに…。

あの人はどうしてしまったのか。

あれほど姉を大切にしていたのに…愛しみ慈しんでいたのに…。

姉の面子を潰して、わが家の家名も傷つけた。きっと、婚約は解消されるのかもしれない…。憧れた二人はもう戻らない…。


屋敷に帰り、家令に父と話したいとだけ告げると、姉はそのまま部屋に行ってしまった。姉の出かける前とのあまりの変化に異変を感じた家令から事情を聞かれた。ありのままを話すと、家令の顔が険しくなっていく。父に急いで遣いを出すとのことだったが、ほどなくして父は帰宅した。

父の書斎に呼ばれたので、ぼくがパーティーでの出来事を説明すると、父の顔も険しくなっていった。

父からは、しばらく学園を休むように言われた。侯爵家としてどうするか、その意向を決めるまでは休むよう言われた。あの人とは接触しないように言い含められた。

次の日、遅めに起きたぼくは姉の部屋の辺りが騒がしいことにすぐに気がついた。そして、姉が高熱を出して意識がないと知らされた。


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