ジークハルト7
今日再び父がリステネ侯爵と面会することになっていた。婚約を継続させてもらえるだろうか…リリアーナに会わせてもらえるだろうか…。学園には来てみたが、一日が気もそぞろに過ぎていった。考えることといえば、リリアーナのことだけだ…。
リステネ姉弟は今日も学園を休んでいた。
今日はリステネ侯爵家には行かなかった。とりあえず、父に面会の結果がどうであったかを確認してからの方がよいと思ったのだ。
学園が終わってまっすぐ屋敷へ戻った。夕食もとらず、ただただ父の帰宅を待った。
父を玄関で出迎えると、父は仕方ないとため息をついて書斎へ向かってくれた。
婚約については、継続したいことを伝えたがどうなるかわからないと言われた。リリアーナへの見舞いは、リリアーナ本人が許可すれば会えるとのことだった。
リリアーナに会えるかもしれない。
そんな期待を抱いたところで、父の発言にショックを受けた。
リリアーナが高熱を出し、一日以上意識が戻らなかったという。パーティーの夜に体調を崩し、昨日わたしがリステネ邸へ押し掛けた時にはまだ意識がなかったのだと…。家令はリリアーナが体調を崩したとしか言わなかった。まさか意識がなかったとは…。意識がないほど状態が悪かったのに、教えてさえもらえなかった…。使用人たちの信用さえ、無くしてしまったのだと感じた。
父とリステネ侯爵が面会する直前に、リリアーナが目覚めたと連絡がきたそうだ。
リリアーナの意識が戻ったことに、ひとまず胸を撫で下ろした。
部屋へ戻る前に、母のところへ寄った。
リリアーナへの見舞いに、屋敷の花をわけてもらいたいと頼んだ。毎日自分で花を摘み、リリアーナへ届けたいのだと訴えると、母はふたつ返事で許可をくれた。庭の花も温室の花も、公爵家の花は全て、一本残らず刈り取ってよいからリリアーナを繋ぎ止めるように言われた。なんとしてもリリアーナを繋ぎ止めろと。
母はリリアーナをとても可愛がっていた。
リリアーナの母は彼女が幼い頃に亡くなっている。幼い頃に婚約者となった彼女に、母は公爵夫人となるための教育を施すのみならず、彼女の淑女教育も担っていた。本当の娘のように可愛がっていた。
「おばさま」とは呼ばせず、すでに「お義母様」と呼ばせていた。
部屋へもどり、静かに息を吐く。
リリアーナへの誠意を示さなければならない。彼女を繋ぎ止めるために、考えられることは全てやるつもりだ。まずは、明日から、リリアーナのもとへ通おうと思う。会ってもらえるまで、何日かかっても…。
リリアーナを諦めることなど考えられないのだから。リリアーナを失うなど、耐えられない。