リリアーナ3
目を覚ますと、いつもの天蓋が見えた。外の空気に触れたくてベッドから出たのに、いつ戻ったのか、全く記憶がない。
だるくて、重たい身体はゆっくりしか動かせず…ゆっくり視線をずらすと、わたしの専属侍女であるミソラがわたしのベッドに突っ伏すように寝ていた。
そんな格好で寝ていては身体を痛めてしまうだろう。ミソラを揺り起こすと、赤い眼をして泣きはらしたように瞼が腫れていた。
「お嬢様…お嬢様ぁ」
よかったですと泣くミソラに抱きしめられる。わたしは夜風にあたって高熱を出し、丸一日以上意識が戻らなかったらしい。
わたしの意識が戻ったと聞いて、アランや家令が顔を見に来た。お父様にも連絡が行き、早めに帰宅されるらしい。
わたしが体調を崩すと、今までは真っ先にジークが見舞いに来ていた。看病と称して、ずっとわたしの側にいた。ゆっくり辺りを見回しても、ジークの姿はない。やはり、あの夢は現実になるのだろう…。
わたしの様子を見て、弟が気遣わしげな視線を寄越す。
「姉さま…」
大丈夫だと微笑んで見せれば、さらに弟の顔が歪んだ。
学園を休んだわたしに、ジークが会いに来たらしい。しかし、門番と家令に追い返されたと…。何を言いに来たのか…考えたくなかった。
意識をなくす程の高熱を出したなら、全て忘れてしまえればよかったのに…。
全部夢だったらよかったのに…。
意識が戻らないまま、そのまま儚くなってしまえたらよかったのかもしれないとさえ思う…。
わたしは、彼を忘れられるだろうか…。どれくらい経てば苦しくなくなるのだろう…泣かずに思い出せる日は来るのだろうか…。
幼い頃からずっと一緒にいたのだ。思い出にはいつもジークがいる…。懐かしいけれど、その懐かしさの先には彼がいる…。全て忘れてしまえればよかったのに。そうすれば、胸が痛むことも、涙が流れることもない…。
料理人が消化によい食事を準備してくれたが、食欲などわかず数口をなんとか飲み込んだ。薬を飲むのが精一杯だ…。
身体はだるく瞼が重いが眠れない。眠るのが恐い。眠れば悪夢がやって来る。
ジークが他の女性に微笑みかけ、手をとって歩いていく。わたしには、今まで見たこともないような冷たい視線を寄越し、目の前で他の女性を抱きしめる。
息ができない感覚がして、胸が苦しくて目が覚める。微睡みの中で繰り返す悪夢で頬が濡れていた。
医者にもっと強い睡眠剤が欲しいと頼んだが、これ以上は身体に害となるから駄目だと言われた。
食べられない、眠れない…。このままでは、わたしはみるみるうちに痩せてやつれていくだろう。
けれど、それでいいかと思うわたしもいた…。
家の皆が心配してくれている。早く元気にならなくては…そう思うわたしもいた。
相変わらず、わたしの中はぐちゃぐちゃだった。