友達論ー番外編ーヒッチハイクした車内にてー
僕には友達がいない。鏡を見て、泣いても、友達は出来やしない。父さんは、ビールを飲む度に、
「友達はいいぞ。お前にも、真の友達が、きっと、出来るさ。何事もあきらめずに、やるんだぞ」
と僕を勇気付けてくれるが、僕には友達が一人も出来ない。僕は独りきり、二階の部屋で缶コーヒーを飲み干す。すると、父さんの声がする。時計を見ると、午前11時11分だった。僕は階段を降り、父さんの元へ。
「お前に言わなければならないことが、一つある。銀行へ行って、12万円を下ろしてきてくれ。そうだ、もう一つ、お前に言わなければ、ならないことがある。友達はいいぞ。そのためにも、ヒッチハイクして銀行へと向かうんだ。わかったか」
僕は、昼間からビール片手に、こう言う、父さんの意味を考えた。ヒッチハイク。そうだ。未知への疾走だ。友達が出来るのかもしれない。僕は、無言のまま、トイレから出てきた母さんから、通帳を預かり、靴を履き、国道へと歩いた。
国道沿いの牛丼屋の前で、ヒッチハイクをする僕。果たして、友達は出来るのであろうか。僕はヒッチハイクを続ける。国道を走る車。停まってくれないかな。僕には、友達が出来る権利と義務があるんだ。負けるな僕。と心の中で叫んでいると、やった、黒い軽自動車が停まった。運転席には、瞳が大きな、きれいなお姉さんが。
「兄ちゃん、どこまで行くの」
「駅前のラーメン屋の横の銀行です」
「あ、知ってる、知ってる。乗りなよ」
僕は、お姉さんの車の助手席に座る。そうだ。お姉さんに訊いてみよう。
「あの、お姉さんは、お仕事、何をされているんですか」
「あ、私。占い師。でも、自分の占いは信じてないけどね」
「あの、僕を占ってもらえませんか」
「いいよ。次、コンビニがあったら停めるよ」
コンビニの駐車場に車を停める、お姉さん。そうだ、友達になってくれるのかもしれない。本当にきれいな人だ。このお姉さん。そして、お姉さんは、僕の手相を見ては、真剣な顔つきになっていく。僕も僕で、友達が一人もいないという最大の悩みをお姉さんに、素直に打ち明けた。お姉さんは僕を見て、言った。
「正直に言っていい」
「はい」
「兄ちゃんは、人に、とても、優しい人。でも、それが、裏目裏目に出て、人に恵まれないんだ。誤解される運勢だね。それから、遠足の前の日に興奮して眠れない性格。真剣になりすぎて、空回り、空回りの人生と出てるよ。ちょっと、私、何か、買ってくるね」
お姉さんは、車を降り、コンビニの店内へと歩いて行った。裏目裏目に出る。人に恵まれない。誤解される。遠足の前の日に眠れない。真剣になりすぎ。空回り、空回り。当たっている。僕は、僕は、泣けてきた。僕は、僕は。この、お姉さんに言ってみよう。友達になれませんか。と。そうこうしていると、お姉さんが、車へと戻って来た。
「兄ちゃん、これでも、飲んで。おごるよ」
お姉さんは、僕に缶コーラを手渡してくれた。そうだ、僕には言わなければならないことがある。
「あの、僕と友達に、なってくれませんか」
「ううん。私、旦那もいるし、子供、そろそろ、中学生だし、忙しくなるしさ。兄ちゃんとは友達になると、ややこしいからなぁ」
「わかりました」
結局、そうか。友達。友達。友達にはなれないのか。お姉さんと二人で缶コーラを飲みながら、僕はこの世の中の仕組みを知った気がした。僕は友達が出来ない、という、最大の悩み事をお姉さんに、話し続けた。お姉さんは、僕の悩みを訊いてくれては、頷いてくれた。
「僕、ここから、歩きます」
「そう、短い間だったけど、楽しかったよ。人生、気楽に考えなよ。友達が出来たらいいね」
「はい。ありがとうございました」
僕は、お姉さんの車を降りて、銀行へと歩いた。
「友達が出来たらいいね」と言ってくれた、占い師のお姉さん。
その言葉を僕は忘れない。僕は、改めて、人生で一番、大事で大切な権利と義務。友達作りに、極めて、前向きに取り組むことにした。